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地域創生リーグ〜地方と都会の逆転劇〜第1章:崩壊する街

目次

第一部:絶望

財政破綻から18年、消滅寸前の北海道夕焼市。父の遺言を受け継いだ元商社マン・小林拓也が、メジャーリーグの贅沢税をヒントに「自治体財政リーグ構想」を思いつく。地方と都会の逆転劇が始まる――ドラマ仕立てのビジネスストーリー第1章。

※この物語は政策エンタメのメソッドによって書かれたフィクションです。

第1章:崩壊する街

2025年10月、北海道夕焼市。

小林拓也は、錆びついた遊具の前に立ち尽くしていた。

ブランコ。滑り台。砂場。

かつて、子供たちの歓声で賑わっていた公園。

今は、誰もいない。

風が吹く。

枯れ葉が舞う。

鉄製のブランコが、きしむ音を立てて揺れた。

「この街は……死んでいく」

小林は、呟いた。


北海道夕焼市

人口、6,000人。

高齢化率、54.4%。

財政破綻から、18年。

かつて炭鉱で栄えたこの街は、今や「消滅可能性都市」のリストに名を連ねている。

小林がこの街を離れたのは、18年前。

東京の大学に進学し、商社に就職。

海外駐在も経験し、順風満帆なキャリアを歩んでいた。

しかし、3ヶ月前。

父が他界した。


父、小林誠一。

元夕焼市の財政課長。

財政破綻の責任を感じ、退職後も地元で再建に尽力していた。

だが、その努力も虚しく。

街は、衰退の一途を辿った。

父は、病床で小林に言った。

「拓也……この街を、頼む」

か細い声だった。

「俺は……何もできなかった」

父の目には、涙が浮かんでいた。

「お前なら……何か、できるかもしれない」

それが、父の最期の言葉だった。


小林は、公園を後にした。

商店街を歩く。

シャッターが閉まった店が、並んでいる。

「佐藤商店」「鈴木電気」「田中食堂」。

幼い頃、よく通った店。

今は、すべて廃業している。

唯一開いているのは、コンビニエンスストアだけ。

小林は、その前を通り過ぎた。


夕焼市役所。

築50年の古びた建物。

壁にはひび割れが走り、ペンキは剥がれている。

小林は、市長室のドアをノックした。

「どうぞ」

中から、低い声が聞こえた。


倉田誠、夕焼市長。

小林の父の同期で、財政破綻の直後から市長を務めている。

白髪が目立つ。

目の下には、深いクマがある。

「小林くん……よく来てくれた」

倉田は、力なく微笑んだ。

「座ってくれ」

小林は、椅子に腰を下ろした。


倉田は、窓の外を見た。

「この街、もう限界だ」

ため息が、漏れた。

「人口は減り続けている。若者は出て行く。残るのは、高齢者ばかり」

倉田は、書類を手に取った。

「今年度の予算、見るか?」

小林は、黙って受け取った。


夕焼市の財政(2025年度)

歳入:102億円

  • 自主財源:8億円(市税、使用料など)
  • 地方交付税:51億円
  • 国庫支出金:23億円
  • 市債:10億円
  • その他:10億円

歳出:102億円

  • 人件費:18億円
  • 扶助費(福祉):32億円
  • 公債費(借金返済):22億円
  • 物件費:15億円
  • 維持補修費:8億円
  • その他:7億円

収支:±0(ギリギリ)


小林は、数字を見つめた。

「自主財源、8億円……」

全体の、わずか8%。

残りの92%は、国からの支援と借金。

「これじゃ、自立なんて無理だ」

小林は、呟いた。

倉田は、頷いた。

「その通りだ。このままでは、この街は消滅する」


「でも……」

倉田は、別の書類を取り出した。

「ふるさと納税、頑張ってるんだが、、、」

ふるさと納税の実績(2024年度)

  • 寄付額:5億円
  • 返礼品:メロン、温泉宿泊券など
  • 経費(返礼品・事務費):2.5億円
  • 実質収入:2.5億円

倉田は、苦笑した。

「でも……焼け石に水だ」


小林は、黙って聞いていた。

ふるさと納税。

個人の善意に頼る制度。

確かに、一定の効果はある。

しかし、構造的な問題は解決しない。

「倉田さん……このままじゃ、本当にこの街は終わる」

小林は、言った。

倉田は、深く頷いた。

「分かってる。でも……俺には、もう打つ手がない」


その夜。

小林は、父の遺した家に戻った。

古い木造の平屋。

リビングには、父の写真が飾られている。

小林は、写真を見つめた。

「親父……俺、どうすればいい?」

答えは、ない。

ただ、風が窓を揺らす音だけが聞こえた。


小林は、パソコンを開いた。

「地方創生 成功事例」

検索する。

様々な事例が出てくる。

観光振興。

企業誘致。

移住促進。

どれも、一定の成果を上げている。

しかし。

「これじゃ、足りない」

小林は、呟いた。

どの施策も、対症療法に過ぎない。

構造的な問題——

財政力の格差。

東京一極集中。

地方交付税の限界。

これらを解決しない限り、地方は救われない。


小林は、別の画面を開いた。

「地方交付税 仕組み」

総務省のホームページ。

地方交付税とは: 国が地方自治体の財源不足を補うために交付する資金。 総額:約16兆円(2024年度)

「16兆円……」

膨大な金額。

しかし、1,741の自治体で分け合えば、1自治体あたり平均92億円。

夕焼市は51億円を受け取っている。

平均以下。

「なぜだ……」

小林は、資料を読み進めた。


地方交付税の配分基準:

  • 人口
  • 面積
  • 産業構造
  • 財政力指数

「財政力が弱いほど、多く配分される」

理論上は、そうなっている。

しかし。

「それでも、足りない」

小林は、画面を閉じた。


時計を見る。

午前2時。

小林は、ベッドに横になった。

天井を見つめる。

「何か……何か、方法があるはずだ」

父の言葉が、頭の中で響く。

「お前なら……何か、できるかもしれない」

小林は、目を閉じた。

しかし、眠れなかった。


翌朝。

小林は、再び市役所を訪れた。

企画課の職員たちと、会議室で打ち合わせ。

「国の補助金、申請できませんか?」

若手職員が、首を振る。

「既に申請してます。でも、競争率が高くて……」

「企業誘致は?」

別の職員が、資料を広げる。

「訪問営業もしてます。でも、交通の便が悪くて……」

「観光振興は?」

ベテラン職員が、ため息をつく。

「温泉はあります。でも、施設が古くて……」


小林は、黙って聞いていた。

どの職員も、真面目に働いている。

しかし、どの施策も、決定打にならない。

「ありがとうございました」

小林は、立ち上がった。

会議室を出る。


小林は、市役所を後にした。

外は、雨が降り始めていた。

小林は、傘もささず、歩いた。

商店街。

公園。

駅。

どこを見ても、衰退の兆しが見える。

「俺に……何ができる?」

小林は、立ち止まった。

雨が、顔を濡らす。

「俺は……ただの元商社マンだ」

力なく、呟いた。


その夜。

小林は、再び父の家に戻った。

濡れた服を着替え、リビングに座る。

テレビをつける。

スポーツニュース。

メジャーリーグの試合結果が流れている。

「ニューヨーク・ヤンキース、今季も贅沢税を支払い……」

アナウンサーの声。

小林は、何気なく画面を見た。


「贅沢税?」

聞き慣れない言葉。

小林は、スマートフォンで検索した。

メジャーリーグの贅沢税(Luxury Tax): 年俸総額が一定の基準を超えたチームに課税。 その税金を、弱小チームに分配。 リーグ全体の競争力を維持する仕組み。

「へえ……」

小林は、記事を読み進めた。


例:ニューヨーク・ヤンキース

  • 年俸総額:300億円(基準を大幅に超える)
  • 贅沢税:50億円
  • この税金が、小規模市場のチームに分配される

「強いチームが、弱いチームを支える……」

小林は、呟いた。

「それで、リーグ全体が強くなる」


小林の心臓が、高鳴った。

「これだ……」

立ち上がる。

「自治体も、同じじゃないか!」

小林は、パソコンを開いた。


東京23区の税収:

  • 湊戸区:約4,000億円
  • 千谷田区:約3,500億円
  • 中区:約2,800億円

「これだけの税収がある」

小林は、数字を見つめた。

夕焼市の税収:

  • 約8億円

「500倍の差……」


「もし……」

小林は、メモを取り始めた。

「港区が、税収の一部を地方に送る」

「メジャーリーグの贅沢税みたいに」

「そうすれば……」

計算する。


仮に、湊戸区が税収の10%を拠出:

  • 4,000億円 × 10% = 400億円

これを、財政が厳しい自治体に分配:

  • 1自治体あたり、20億円ずつ配れば……
  • 20の自治体を支援できる

「これなら……!」

小林の目が、輝いた。


しかし、すぐに現実に引き戻される。

「でも……湊戸区が協力するわけがない」

「住民が反対する」

「国も認めない」

障害は、山ほどある。

小林は、椅子に座り込んだ。


「でも……」

小林は、父の写真を見た。

「やるしかない」

「親父が、託してくれた」

「この街を、救うために」

小林は、決意した。


小林は、ノートを開いた。

タイトルを書く。

「自治体財政リーグ構想」

そして、書き始めた。

スポーツリーグのように、自治体を財政力でランク分け。

強い自治体が、弱い自治体を支援する。

個人の善意ではなく、構造的な仕組みとして。


時計を見る。

午前3時。

外は、まだ雨が降っている。

小林は、書き続けた。

一人で。

誰の助けも借りず。

ただ、キーボードを叩く音だけが、部屋に響いていた。


「この街を……絶対に、救う」

小林は、呟いた。


目次第2章▶

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