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地域創生リーグ〜地方と都会の逆転劇〜13章:氷室の変

目次

第三部:闘争

懐疑的だった氷室課長補佐が夕焼市を訪問、そこで見たものは5ヶ月で変わった街と住民の笑顔。「小林さん、あなたが正しかった」涙の告白。島根出身の彼が我々欲チームに加わり、財務省説得に動き出す。第13章、氷室の変。

※この物語は政策エンタメのメソッドによって書かれたフィクションです。

第13章:氷室の変

2026年9月15日、東京・霞が関。

総務省自治行政局。

会議室に、10人が集まっていた。

議題:地域創生リーグ モデル事業 中間報告

会議室の中央に座るのは、大河内康介部長。

その横に、氷室徹課長補佐。

そして、各課の担当者たち。

対面には、小林拓也、桜井美咲、神山健二教授、結城剛、高瀬麗子議員。

我々欲チームの5人。

「それでは、モデル事業の中間報告を始めます」

大河内部長が、資料を開いた。

「小林さん、まず、現状報告をお願いします」

小林は、立ち上がった。

プロジェクターに、スライドを映し出す。

スライド1:モデル事業の概要

期間:2026年4月1日〜2027年3月31日(1年間)

参加自治体:
・プラチナリーグ:湊戸区(東京都)
・チャレンジリーグ:12自治体

支援総額:240億円
マイナポイント:3万円×12.8万人=38.4億円

「現在、開始から5ヶ月半が経過しました」

小林が、次のスライドを開いた。

スライド2:5ヶ月間の成果

【湊戸区】
マイナポイント受給率:85.3%(目標70%を大幅に超過)
交流イベント参加者:累計1,850名
住民満足度:87.2%

【夕焼市(代表例)】
支援金受領:20億円
投資実績:
・メロンハウス近代化:3.2億円
・道路・インフラ整備:2.8億円
・子育て支援拡充:1.5億円
・企業誘致活動:1.2億円

効果:
・自主財源:8億円 → 9.2億円(+15%)
・ふるさと納税:5億円 → 6.8億円(+36%)
・人口減少率:年5.2% → 年4.1%(21%改善)

大河内部長が、眼鏡を直した。

「自主財源が15%増……」

「本当ですか?」

小林が、頷いた。

「はい。メロンの品質向上により、市場価格が上がりました」

「観光客も増加し、温泉施設の収入も伸びています」

氷室が、質問した。

「人口減少率の改善、21%……」

「これは、一時的なものではないですか?」

桜井が、答えた。

「確かに、まだ5ヶ月です」

「しかし、トレンドは明確です」

桜井が、グラフを示した。

スライド3:夕焼市の人口推移

2023年:6,500人(前年比▲5.4%)
2024年:6,150人(前年比▲5.4%)
2025年:5,820人(前年比▲5.4%)
2026年4月:5,750人
2026年9月:5,733人(前年同期比▲4.1%)

予測:
2027年3月:5,680人(前年比▲2.4%)

「4月以降、減少ペースが鈍化しています」

桜井が、説明した。

「これは、若年層の流出が止まったことを意味します」

氷室が、資料を見つめた。

「……興味深い」

神山教授が、補足した。

「さらに、心理的な効果も出ています」

神山教授が、スライドを開いた。

スライド4:住民アンケート結果

夕焼市住民(回答数:800名)

Q1:将来に希望を感じますか?
・非常に感じる:32%
・やや感じる:48%
・どちらとも言えない:15%
・感じない:5%

希望を感じる:80%(前年18%から大幅上昇)

Q2:この街に住み続けたいですか?
・はい:78%(前年45%から上昇)
・いいえ:8%
・分からない:14%

「住民の意識が、劇的に変わっています」

神山教授が、説明した。

「『この街は消滅する』という諦めから……」

「『この街は再生する』という希望へ」

氷室が、メモを取った。

結城が、口を開いた。

「湊戸区の住民の反応も、報告します」

結城が、スライドを開いた。

スライド5:湊戸区住民アンケート

湊戸区住民(回答数:3,200名)

Q1:地域創生リーグに満足していますか?
・非常に満足:42%
・やや満足:45%
・どちらとも言えない:10%
・不満:3%

満足:87%

Q2:来年も継続すべきですか?
・はい:89%
・いいえ:5%
・分からない:6%

「住民の89%が、継続を希望しています」

結城が、説明した。

「交流イベントに参加した住民は、特に満足度が高い」

「『地方の魅力を知った』『人との繋がりができた』という声が多数」

大河内部長が、頷いた。

「数字は、申し分ない」

「しかし……」

大河内部長は、別の資料を取り出した。

「財務省から、懸念が出ています」

小林たちが、緊張した。

大河内部長が、資料を読み上げた。

「地方交付税の削減幅が、予測よりも小さい」

「当初、チャレンジリーグ12自治体で約100億円の削減を見込んでいた」

「しかし、実際は約65億円にとどまっている」

桜井が、答えた。

「それは、自治体の財政が改善しているからです」

「自主財源が増えれば、地方交付税の需要額も下がります」

「ただし、急激には下がりません」

「財務省は、『費用対効果が不十分』と主張している」

大河内部長が、続けた。

「マイナポイント38.4億円に対し、交付税削減が65億円」

「純削減は26.6億円」

「これでは、全国展開したときに、国の財政改善効果が限定的だと」

高瀬議員が、口を開いた。

「それは、短期的な視点です」

「3年後、5年後には、自主財源がさらに増え、交付税削減幅も大きくなります」

「長期的には、必ずプラスになります」

大河内部長が、頷いた。

「私も、そう思います」

「しかし、財務省を説得するには……」

「もっと強いデータが必要です」

その時。

氷室が、手を挙げた。

「部長、私から提案があります」

全員が、氷室を見た。

氷室は、立ち上がった。

「私、先週、夕焼市に行ってきました」

小林が、驚いた。

「え……?」

氷室が、続けた。

「自分の目で、現場を見たかったんです」

「データだけじゃなくて、実際の街を」

氷室は、スマートフォンを取り出した。

写真を、プロジェクターに映し出す。

夕焼市の写真。

新しく建てられたメロンハウス。

整備された道路。

笑顔の農家。

子供たちが遊ぶ公園。

「この街……変わってました」

氷室の声が、震えた。

「5ヶ月前、小林さんが持ってきた写真は……」

「廃墟のような街でした」

「でも、今は違う」

「人々の表情が、明るくなっていました」

「『希望が戻った』と、みんなが言っていました」

氷室は、小林を見た。

「小林さん……」

「はい」

「あなたが、正しかった」

氷室の目が、潤んでいた。

「最初、私は懐疑的でした」

「『理想論だ』『現実は甘くない』と思っていました」

「でも……」

氷室は、写真を見た。

「現場を見て、分かりました」

「この制度は、本物です」

氷室は、大河内部長を見た。

「部長、私は全国展開を推します」

「財務省を説得するために、私が動きます」

大河内部長が、驚いた。

「氷室……お前が?」

氷室が、頷いた。

「はい。私、島根県出身なんです」

「人口1万人の小さな町」

「だから……地方の苦しみが、分かるんです」

「夕焼市を見て、思い出しました」

「私の故郷も、同じように苦しんでいる」

氷室は、小林に頭を下げた。

「小林さん、協力させてください」

「この制度を、全国に広げましょう」

小林は、立ち上がった。

氷室のところに行った。

手を差し出した。

「氷室さん……ありがとうございます」

氷室も、手を握った。

「こちらこそ」

会議室に、拍手が起きた。

大河内部長も、拍手している。

神山教授も。

桜井も。

結城も。

高瀬議員も。

大河内部長が、立ち上がった。

「分かりました」

「氷室、お前に財務省との調整を任せる」

「私も、全力でバックアップする」

「そして……」

大河内部長は、小林たちを見た。

「来年1月、国会に法案を提出します」

「『地域創生リーグ推進法』」

「全国展開に向けて、動きます」

小林は、涙が出そうになった。

「本当ですか……?」

大河内部長が、頷いた。

「ああ。データが揃った」

「住民の支持もある」

「そして……」

大河内部長は、氷室を見た。

「現場を見た職員が、心を動かされた」

「これ以上、何が必要だ?」

会議が、終わった。

午後6時。

小林たちは、霞が関を出た。

秋の夕暮れ。

オレンジ色の空。

「夕焼けだ……」

小林が、呟いた。

結城が、小林の肩を叩いた。

「夕焼市の、夕焼けみたいだな」

小林が、微笑んだ。

「はい」

神山教授が、言った。

「氷室さん、変わりましたね」

桜井が、頷いた。

「現場を見たからよ」

「データだけじゃなく、人の顔を見た」

高瀬議員が、言った。

「これで、法案化への道が開けました」

「来年1月、国会で闘います」

小林は、空を見上げた。

「父さん……もう少しです」

「もう少しで、日本中に広がります」

その夜。

小林は、夕焼市に電話した。

倉田市長が、出た。

「もしもし、倉田さん」

「おお、小林くん。どうだった?」

「良い報告です」

小林は、今日の会議のことを説明した。

氷室の変化。

大河内部長の決断。

来年1月の法案提出。

「本当か!?」

倉田の声が、弾んだ。

「やったな、小林くん!」

「ついに、全国に広がるんだな!」

小林は、微笑んだ。

「はい。でも、まだ油断できません」

「国会での闘いが、待っています」

「大丈夫だ」

倉田の声が、力強かった。

「お前たちなら、できる」

「我々欲チーム、最強だからな」

小林は、頷いた。

「はい。頑張ります」

電話を切る。

小林は、窓の外を見た。

東京の夜景。

無数の光。

「氷室さんが、味方になってくれた」

小林は、呟いた。

「これで、戦力が増えた」

小林は、ノートを開いた。

「次は、財務省だ」

「そして、国会」

「闘いは、これからだ」

翌日、9月16日。

氷室徹は、財務省を訪れた。

主計局。

地方財政を担当する部署。

「失礼します」

氷室が、会議室に入った。

中には、財務省の担当者たち。

冷たい視線。

「総務省の氷室です」

「地域創生リーグの件で、お時間をいただきました」

財務省の課長が、腕を組んだ。

「どうぞ」

氷室は、資料を配った。

「モデル事業の中間報告です」

「5ヶ月間で、明確な成果が出ています」

財務省の課長が、資料を見た。

「自主財源15%増、ふるさと納税36%増……」

「しかし、地方交付税の削減は65億円にとどまっている」

「費用対効果が、不十分だ」

氷室は、深呼吸した。

「確かに、短期的にはそうです」

「しかし……」

氷室は、スマートフォンを取り出した。

夕焼市の写真を見せた。

「私、先週、夕焼市に行ってきました」

財務省の課長が、眉をひそめた。

「それが、何か?」

氷室は、写真を指差した。

「この街、5ヶ月前は廃墟のようでした」

「でも、今は違う」

「人々が、希望を取り戻しています」

「メロンハウスが近代化され、生産量が増えている」

「道路が整備され、物流が改善している」

「子育て支援が充実し、若い夫婦が戻ってきている」

「これは……数字だけじゃ分からないんです」

氷室の声が、熱を帯びた。

「現場を見ないと、分からない」

財務省の課長が、黙った。

氷室は、続けた。

「財務省のみなさんも、一度、現場を見てください」

「夕焼市でも、歌山内市でも、どこでもいい」

「チャレンジリーグの自治体を、見てください」

「そうすれば……分かります」

「この制度が、どれだけ重要か」

財務省の課長が、ため息をついた。

「氷室さん、気持ちは分かります」

「しかし、我々は数字で判断しなければならない」

「感情では、予算は組めません」

氷室は、別の資料を取り出した。

「では、長期予測を見てください」

桜井が作成した、詳細なシミュレーション。

資料:10年後の財政予測

2026年(現在):
・マイナポイント支出:38.4億円
・地方交付税削減:65億円
・純削減:26.6億円

2031年(5年後):
・自主財源:9.2億円 → 12億円(+30%)
・地方交付税削減:65億円 → 150億円
・純削減:111.6億円

2036年(10年後):
・自主財源:12億円 → 15億円(+25%)
・地方交付税削減:150億円 → 200億円
・純削減:161.6億円

全国展開(241自治体)した場合:
10年後の純削減:約3.9兆円

財務省の課長が、資料を見た。

「3.9兆円……」

「本当に、こうなりますか?」

氷室が、頷いた。

「はい。ただし、条件があります」

「自治体が、ちゃんと努力すること」

「支援を受けるだけじゃなく、自立に向けて動くこと」

「その仕組みが、昇格・降格制度です」

「努力した自治体は、昇格する」

「努力しない自治体は、降格する」

「だから、インセンティブが働くんです」

財務省の課長が、考え込んだ。

「……検討します」

「ただし、約束はできません」

氷室は、頭を下げた。

「ありがとうございます」

「ご検討、よろしくお願いします」

財務省を出る。

氷室は、スマートフォンを取り出した。

小林に電話する。

「もしもし、小林さん」

「氷室さん、どうでしたか?」

「厳しかったです」

氷室の声が、疲れていた。

「でも……諦めません」

「何度でも、説明に行きます」

「必ず、説得します」

小林は、微笑んだ。

「ありがとうございます、氷室さん」

「一緒に、頑張りましょう」

「はい」

氷室も、微笑んだ。

「我々欲チームの一員として」

電話が、切れた。

氷室は、空を見上げた。

秋の青空。

「島根の、あの町も……」

氷室は、呟いた。

「いつか、救いたい」


◀第12章目次第14章▶


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