第三部:闘争
保守派の中区で区議会を先に動かす戦略。地方出身議員が涙「絶対に必要です」。28対19で可決、石橋区長も住民説明会開催へ。だが財務省「1年半は譲歩だ。本来3年必要」。永遠に法案化できない罠。政治の力が必要になる。
※この物語は政策エンタメのメソッドによって書かれたフィクションです。
第15章:2つ目の自治体
2026年11月20日、東京・国会議事堂。
高瀬麗子議員の事務所。
小林拓也、桜井美咲、氷室徹の3人が座っていた。
「プラチナリーグ20自治体のリスト、できたわ」
桜井が、資料を配った。
プラチナリーグ20自治体:
- 湊戸区(東京都)→ モデル事業実施中
- 千谷田区(東京都)
- 中区(東京都)
- 渋沢区(東京都)
- 世代谷区(東京都)
- 品川北区(東京都)
- 港南区(神奈川県)
- 中心区(大阪府)
- 南区(大阪府)
- 天神南区(福岡県)
- 星ヶ丘市(愛知県)
- 緑川市(愛知県)
- 若林市(千葉県)
- 桜野市(埼玉県)
- 朝日ヶ丘市(兵庫県)
- 海風市(神奈川県)
- 泉ヶ岳市(宮城県)
- 光明市(広島県)
- 白銀市(静岡県)
- 青空市(福岡県)
「この中から、2つ選ばないといけない」
氷室が、リストを見た。
「財政力があって、240億円の負担に耐えられる自治体」
小林が、質問した。
「どの自治体が、候補ですか?」
桜井が、別の資料を出した。
財政力指数ランキング(プラチナリーグ内):
- 湊戸区:1.85
- 千谷田区:1.72
- 中区:1.68
- 港南区:1.55
- 渋沢区:1.52
- 品川北区:1.48
- 世代谷区:1.45
- 中心区(大阪):1.42 …
「千谷田区と中区が、有力候補ね」
桜井が、説明した。
「どちらも、税収が3,500億円以上ある」
「240億円の負担は、約7%」
「湊戸区とほぼ同じ水準」
高瀬議員が、口を開いた。
「千谷田区の区長、知ってます」
「鳥海区長。55歳、改革派」
「話してみましょうか?」
小林が、頷いた。
「お願いします」
翌日、11月21日。
千谷田区役所。
鳥海健一区長(55歳)のオフィス。
高瀬議員、小林、桜井、氷室の4人が訪れた。
「お忙しいところ、ありがとうございます」
高瀬議員が、頭を下げた。
鳥海区長は、笑顔で迎えた。
「高瀬議員、お久しぶりです」
「こちらが、地域創生リーグの小林さんたちですか」
小林が、立ち上がった。
「はい。小林拓也と申します」
「今日は、お願いがあって参りました」
鳥海区長が、座るよう促した。
「どうぞ、座ってください」
「地域創生リーグ、話題になってますね」
「湊戸区でのモデル事業、成功してるそうじゃないですか」
小林は、資料を取り出した。
「はい。5ヶ月間で、明確な成果が出ています」
プロジェクターに、データを映し出す。
夕焼市の自主財源15%増加。
住民の希望感80%。
湊戸区の住民満足度87%。
鳥海区長が、頷いた。
「素晴らしい」
「で、今日のご用件は?」
氷室が、説明した。
「実は、財務省から、追加で2つの自治体でモデル事業を実施するよう求められています」
「千谷田区に、ぜひご協力いただきたいんです」
鳥海区長が、腕を組んだ。
「なるほど……」
「240億円の負担ですね」
桜井が、財政シミュレーションを示した。
「千谷田区の税収は3,600億円」
「240億円は、約6.7%」
「十分、負担可能な範囲です」
「しかも、地方交付税の調整があるので、実質的な負担はもっと小さくなります」
「長期的には、国の財政改善にも貢献します」
鳥海区長が、資料を見た。
「確かに、数字上は問題ない」
「でも……」
鳥海区長は、窓の外を見た。
「区議会を説得できるかな……」
「千谷田区議会は、保守的なんですよ」
「『なぜ、地方に金を送る必要がある』という議員が多い」
高瀬議員が、答えた。
「湊戸区でも、最初は反対派がいました」
「しかし、住民説明会で80.7%の賛成を得ました」
「データと、地方の現状を丁寧に説明すれば、必ず理解してもらえます」
鳥海区長が、考え込んだ。
「……分かりました」
「やってみましょう」
小林が、目を輝かせた。
「本当ですか!?」
鳥海区長が、微笑んだ。
「ただし、条件があります」
「条件……?」
小林が、聞いた。
鳥海区長が、答えた。
「私も、区議会も、住民も、納得できるデータが必要です」
「湊戸区の1年間の完全なデータ」
「そして、夕焼市だけでなく、他の11自治体のデータも」
「つまり、『成功例』だけじゃなく、『失敗例』も見たい」
鳥海区長が、続けた。
「12自治体すべてが成功するとは、思えません」
「中には、うまくいかない自治体もあるはずです」
「それも含めて、判断したい」
桜井が、頷いた。
「おっしゃる通りです」
「財務省からも、同じ要求が出ています」
「すべてのデータを開示します」
鳥海区長が、頷いた。
「分かりました」
「では、1年後、湊戸区のモデル事業が終わった段階で、再度協議しましょう」
「その時点で、千谷田区でのモデル事業開始を決定します」
小林が、頭を下げた。
「ありがとうございます!」
千谷田区役所を出る。
4人が、ほっとした。
「1つ目、確保したわね」
桜井が、微笑んだ。
高瀬議員が、言った。
「次は、中区ね」
「中区の区長、難しいですよ」
「石橋区長。63歳、超保守派」
氷室が、聞いた。
「どう難しいんですか?」
高瀬議員が、答えた。
「石橋区長は、『中区ファースト』を掲げてます」
「『中区の税金は、中区のために使う』が信条」
「地域創生リーグなんて、真っ向から反対されそう」
小林が、考えた。
「でも……説得しないといけない」
「財務省は、2つの自治体を要求してます」
「千谷田区だけじゃ、足りない」
桜井が、言った。
「じゃあ、戦略を変えましょう」
「区長を説得するんじゃなくて、区議会を先に動かす」
「区議会が賛成すれば、区長も無視できなくなる」
高瀬議員が、頷いた。
「なるほど。それなら、私が中区の区議会議員に根回しします」
「何人か、知り合いがいます」
11月25日。
中区議会の議員会館。
高瀬議員と小林が、中区議会議員の藤沢美奈子(48歳)を訪ねた。
「高瀬先生、お久しぶりです」
藤沢議員が、笑顔で迎えた。
「藤沢さん、今日はお願いがあって」
高瀬議員が、地域創生リーグの説明を始めた。
藤沢議員は、真剣に聞いていた。
「素晴らしい構想ですね」
藤沢議員が、言った。
「私、賛成です」
小林が、驚いた。
「本当ですか?」
藤沢議員が、頷いた。
「はい。実は、私の実家、高知県なんです」
「過疎化で苦しんでます」
「だから、地方の現状、よく分かるんです」
「中区議会でも、地方出身の議員が何人かいます」
「彼らを集めて、勉強会を開きましょう」
「そこで、小林さんにプレゼンしてもらえませんか?」
小林が、頷いた。
「もちろんです!」
12月5日。
中区議会、勉強会。
中区議会議員15名が集まった。
小林が、プレゼンを行った。
湊戸区のモデル事業の成果。
夕焼市の劇的な変化。
住民の希望。
データ。
議員たちは、真剣に聞いていた。
質疑応答。
質問者A(50代男性議員):
「でも、石橋区長は反対してますよね?」
小林が、答えた。
「はい。しかし、区議会が賛成すれば、区長も動かざるを得ません」
質問者B(40代女性議員):
「住民の反発は、ありませんか?」
小林が、答えた。
「湊戸区では、80.7%が賛成しました」
「丁寧に説明すれば、必ず理解してもらえます」
質問者C(60代男性議員):
「私、岩手県出身なんです」
議員の目が、潤んでいた。
「地方の現状、痛いほど分かります」
「この制度、絶対に必要です」
「私、賛成します」
他の議員たちも、頷いた。
「私も賛成」
「私も」
藤沢議員が、立ち上がった。
「では、来月の区議会で、正式に議案を提出します」
「地域創生リーグへの参加を求める決議案」
小林が、頭を下げた。
「ありがとうございます!」
12月20日。
中区議会。
決議案が提出された。
決議案:
「中区は、地域創生リーグのモデル事業に参加し、チャレンジリーグ12自治体を支援することを求める」
採決。
賛成:28名
反対:19名
棄権:3名
可決。
藤沢議員が、記者会見。
「中区議会は、地域創生リーグへの参加を求めます」
「石橋区長には、区議会の決議を尊重していただきたい」
翌日、12月21日。
中区役所。
石橋区長(63歳)が、記者会見。
「区議会の決議を、重く受け止めます」
石橋区長が、渋い顔で言った。
「しかし、最終判断は、住民の意見を聞いてから」
「来年1月、住民説明会を開催します」
記者から質問。
「区長は、個人的に反対なんですか?」
石橋区長が、答えた。
「私は、中区ファーストです」
「中区の税金は、中区のために使うべきだと思っています」
「しかし……」
石橋区長は、一度止まった。
「区議会の決議もある」
「住民の声も聞かなければならない」
「だから、説明会を開いて、判断します」
その夜。
小林は、結城のオフィスにいた。
神山教授、桜井、氷室、結城、高瀬議員も。
「千谷田区、確保」
桜井が、ホワイトボードに書いた。
「中区、住民説明会で勝負」
結城が、言った。
「説明会、いつだ?」
高瀬議員が、答えた。
「1月15日です」
「湊戸区の説明会から、ちょうど1年後」
神山教授が、言った。
「プレゼン資料、ブラッシュアップしましょう」
「湊戸区の1年間の完全なデータを入れます」
「夕焼市だけでなく、他の11自治体のデータも」
小林が、質問した。
「他の11自治体……全部、順調ですか?」
桜井が、資料を開いた。
12自治体の中間報告(8ヶ月):
成功例:
- 夕焼市:自主財源+15%、ふるさと納税+36%
- 馬道村:自主財源+12%、ふるさと納税+28%
- 大谷村:自主財源+10%、ふるさと納税+25%
- 津山野町:自主財源+8%、ふるさと納税+20%
普通:
- 風間崎村:自主財源+5%、ふるさと納税+15%
- 東目屋村:自主財源+4%、ふるさと納税+12%
- 五津川村:自主財源+3%、ふるさと納税+10%
- 椎木村:自主財源+2%、ふるさと納税+8%
苦戦中:
- 歌山内市:自主財源+1%、ふるさと納税+5%
- 二笠市:自主財源±0%、ふるさと納税+3%
- 上大阿仁村:自主財源▲2%、ふるさと納税+2%
- 吉永町:自主財源▲3%、ふるさト納税+1%
結城が、資料を見た。
「上大阿仁村と吉永町……マイナスじゃないか」
桜井が、頷いた。
「そう。苦戦してる」
「特に吉永町は、支援金の使い方で住民の反発があった」
「『箱物に使いすぎた』と」
氷室が、聞いた。
「これ、財務省に見せるんですよね……」
桜井が、頷いた。
「ええ。すべてのデータを開示する約束ですから」
小林が、不安そうに言った。
「失敗例を見せたら……」
「財務省は、『ほら見ろ、やっぱりダメじゃないか』って言いますよね」
神山教授が、答えた。
「いいえ。逆です」
「失敗例も含めて見せることで、『隠してない』という信頼を得られます」
「そして、12自治体中8自治体が成功してる、という事実が重要なんです」
「成功率67%」
神山教授が、続けた。
「これは、十分に高い数字です」
「100%成功なんて、あり得ません」
「67%なら、政策として十分に有効です」
�桜井が、補足した。
「しかも、苦戦してる4自治体にも、再建支援チームを派遣してます」
「来年3月までには、改善する見込みです」
結城が、頷いた。
「なるほどな」
「失敗も含めて見せる、か」
「正直でいいじゃないか」
高瀬議員が、言った。
「ただし、財務省の梶原課長は、これを攻撃材料にしてくるでしょう」
「『3割は失敗してるじゃないか』と」
氷室が、答えた。
「その時は、私が反論します」
「政策実証で67%の成功率は、極めて高い」
「通常、新しい政策は30〜40%しか成功しません」
小林が、ノートにメモを取った。
その時。
小林のスマートフォンが鳴った。
大河内部長からだ。
「もしもし、部長」
「小林さん、財務省から連絡がありました」
大河内の声が、緊張していた。
「梶原課長が、こう言ってます」
「『モデル事業の延長期間、本来は3年は必要だ』と」
小林が、驚いた。
「3年!?」
「でも、1年半で合意したはずでは……」
大河内が、答えた。
「ええ。しかし、梶原課長は『1年半は譲歩だ』と主張しています」
「『本来なら3年は必要なところを、総務省のために1年半にしてやった』と」
「つまり……」
大河内の声が、沈んだ。
「財務省は、最初からハードルを上げているんです」
「1年半後にデータを見せても、『やはり短い。あと1年半必要だ』と言ってくる可能性があります」
小林は、拳を握った。
「それじゃ……永遠に法案化できないじゃないですか」
大河内が、答えた。
「だから、完璧なデータを出さないといけません」
「文句の付けようがないデータを」
「そして……」
「政治的な圧力も必要です」
大河内が、続けた。
「高瀬議員、国会で動いてください」
「財務省を動かすには、政治の力が必要です」
高瀬議員が、答えた。
「分かりました」
「来年の通常国会で、質問します」
「地域創生リーグの意義を、国会で訴えます」
電話が、切れた。
会議室が、重い空気に包まれた。
小林が、呟いた。
「3年……」
「そんなに待てるのか……」
結城が、小林の肩を叩いた。
「待つしかないだろ」
「でも、俺たちは諦めない」
「必ず、完璧なデータを出す」
「そして、財務省を黙らせる」
小林は、頷いた。
「はい……」
神山教授が、言った。
「小林さん、大丈夫です」
「我々欲チーム、必ず勝ちます」
桜井も、頷いた。
「そうよ。データは、嘘をつかない」
「1年半後、完璧な結果を見せてやるわ」
小林は、6人を見た。
神山教授。
桜井美咲。
結城剛。
高瀬麗子議員。
氷室徹。
「みんな……ありがとうございます」
小林の声が、震えた。
「一緒に、闘ってください」
6人が、頷いた。
「当たり前だ」
結城が、笑った。
その夜。
小林は、夕焼市に電話した。
倉田市長が、出た。
小林は、今日の出来事を説明した。
千谷田区の確保。
中区の住民説明会。
財務省の「3年必要」発言。
「3年か……」
倉田の声が、重かった。
「長いな……」
「でも、諦めません」
小林が、力強く言った。
「必ず、完璧なデータを出します」
「夕焼市も、頑張ってください」
倉田は、微笑んだ。
「ああ。任せろ」
「我々も、自主財源をもっと増やす」
「ふるさと納税も、もっと伸ばす」
「1年半後、完璧な結果を見せてやる」
小林は、微笑んだ。
「ありがとうございます」
電話を切る。
小林は、窓の外を見た。
冬の夜空。
星が、輝いている。
「父さん……」
小林は、呟いた。
「まだまだ、時間がかかります」
「でも、諦めません」
「3年でも、5年でも」
「必ず、やり遂げます」
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