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理想の値段~28の声が問う、自治の未来~あとがき|理想の値段を払えるか

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あとがき|理想の値段を払えるか

この物語は、地方自治の現場で日々格闘しているすべての人に捧げたいと思います。
登場する「雪国市」は架空の都市ですが、その背景にあるのは、全国のどこにでもある“現実”です。

住民参加。
分権。
地域予算。

――どれも聞こえは美しい。
だが、その裏には、会議室の蛍光灯の下で、何度も自問を繰り返す職員たちの姿がある。
「理想を貫くことは、誰かの犠牲を生むのではないか」
その問いこそが、行政の現場に流れる“見えないドラマ”だと思います。


鬼頭という「現実の記憶」

鬼頭誠二は、悪役ではありません。
彼は、過去の痛みを背負った「現実の証人」です。
数字を信じざるを得なかった男。
彼の冷徹さは、同時に「守るための不器用な優しさ」でもありました。

棄権という選択。
それは、敗北ではなく、静かな譲渡です。
――“理想を託す”という形の、現実的な愛情でした。


ハナという「市民の希望」

ハナは、ただの脇役ではありません。
彼女こそ、この物語の「心臓」です。

制度を信じ、裏切られ、それでももう一度信じる。
それは、行政職員でも政治家でもない、“生活者の勇気”でした。
彼女の手紙は、物語の救済であり、自治の本質そのものでした。


田村という「理想の実験者」

田村慎一は、完璧なヒーローではありません。
彼は失敗し、汚れ、迷いながらも立ち上がった人間です。

理想とは、掲げるだけのものではない。
自らの手を泥に沈め、現実と折り合いをつけながら、なお光を手放さないこと。
それが、“理想の値段”を払うということだと思います。


政策エンタメとしての意味

この作品は、単なる行政ドラマではなく、
「政策を物語で伝える」試み――つまり**政策エンタメ(Policy Entertainment)**として構想しました。

数字や制度の裏にあるのは、人の感情と決断です。
報告書や白書では伝わらない「息づかい」を、物語という形で描きたかった。

読者がこの物語を読み終えたとき、
もし心のどこかで「自分の街のことを少し考えてみよう」と思ってもらえたなら、
それがこの作品のいちばんの成果です。


そして、現実へ

現実の行政現場では、正解のない判断が日々積み重ねられています。
「効率」と「誇り」――どちらも必要で、どちらも欠ければ街は立ち行かない。

この物語が、机の上の数字に血を通わせるための一助になれば幸いです。


雪が溶け、春が来る。
その瞬間こそ、誰かの理想が、誰かの手で守られた証なのかもしれない。

追記

の物語の種は、旅の途中で芽を出しました。

関西から車中泊の旅で会津若松へ向かう道中、
上越市を通過したときのことです。

交差点を通るたびに表示されている〇〇区という地名。
「なんで、こんなに区が多いんだろう?」

その素朴な疑問が、頭から離れませんでした。
調べてみると、かつての合併で二十八もの地域自治区が設けられたと知り、
「この制度をめぐって、どんなドラマがあったんだろう」と思った瞬間、
田村慎一と鬼頭誠二の姿が浮かびました。

道路沿いの雪山、夜明けの日本海、
道の駅で淹れた缶コーヒーの湯気。
あの旅の風景が、そのままこの小説の背景になっています。

現実の上越市は、もちろん物語とは関係のない穏やかな街です。
けれど、あの地名の看板を見たときの”違和感”がなければ、
この物語は生まれませんでした。

小説とは、旅の途中で拾った小さな疑問が、
時間をかけて物語になる――その証のようなものだと思います。


第5章目次

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