※この物語はフィクションです。
前回までのあらすじ: 青葉台小学校に赴任した美咲は、校長から「発芽カリキュラム」という未知の教育手法を任された。五年三組の子どもたちとの初対面を終え、この新しい学習方法への第一歩を踏み出そうとしていた。
今回の見どころ: ついに始まった発芽カリキュラムの実践。給食をテーマに教科横断の授業を試みるが、子どもたちは困惑し、美咲自身も指導法に迷う。国語の作文、算数の栄養計算で次々と壁にぶつかる美咲。果たして新しい教育への挑戦は成功するのか…
翌日の朝の会で、美咲は子どもたちに提案した。
「昨日話した発芽カリキュラムのテーマを決めたいと思います。みんなで『給食』について調べてみませんか?」
「給食?」
子どもたちの反応は微妙だった。
「毎日食べてるから、つまらなくない?」
健太が首をかしげた。
「そうかな。給食がどこから来るのか、誰が作っているのか、考えたことある?」
美咲は子どもたちの顔を見回した。
「給食のおばちゃんが作ってる」
後ろの席の子が答えた。
「その材料はどこから来るの?どうやって栄養バランスを考えているの?世界には給食がない国もあるよね」
だんだん子どもたちの表情が変わってきた。
「私、給食のメニューを決めてる人に会ってみたい」
花音が手を挙げた。
「僕は、野菜を作ってる農家の人に話を聞いてみたい」
健太も興味を示した。

「じゃあ、それも含めて調べてみましょう。国語の時間は給食について作文を書いて、算数では栄養計算、理科では消化の仕組み、社会では農業について学習します」
美咲の説明に、子どもたちの目が輝き始めた。
「先生、それって面白そう!」
「いつから始めるの?」
美咲は子どもたちの反応に安堵した。
「来週から始めましょう。みんなで協力して、給食の秘密を解明していこう」
教室に拍手が響いた。
しかし、実際に始めてみると、問題は山積みだった。
国語の時間、美咲は給食について作文を書かせようとしたが、子どもたちは「何を書けばいいか分からない」と困惑した。
「先生、いつもの作文と何が違うの?」
花音が質問した。
美咲も戸惑った。発芽カリキュラムでの作文は、従来の作文とどう違うのか。資料を読み返しても、具体的な指導法が書かれていない。
「えーと、給食を食べた感想だけじゃなくて、給食について疑問に思ったことや、調べてみたいことを書いてみて」
美咲は場当たり的に答えた。
算数の時間はもっと大変だった。栄養計算と言っても、小学五年生にどこまで教えるべきか分からない。カロリー計算は難しすぎるし、かといって単純な足し算では物足りない。
「先生、これって本当に算数なの?」
健太が不満そうに言った。
「算数は算数でちゃんと勉強したい」
他の子からも同じような声が上がった。
美咲は冷や汗をかいた。発芽カリキュラムに対する子どもたちの不信感が生まれている。
その夜、美咲は家で一人、膨大な資料と向き合っていた。
「私には無理なのかもしれない」
スマートフォンが鳴った。母からの電話だった。
「美咲、元気?新しい学校はどう?」
「うん、まあ…」
美咲は母に発芽カリキュラムのことを話した。

「新しいことに挑戦するのは大変だけど、美咲らしいじゃない。昔から、人と違うことをするのが好きだったでしょ」
母の言葉に、美咲は小さく笑った。
「でも、子どもたちに迷惑をかけてるんじゃないかって思うの」
「美咲が一生懸命やってることは、きっと子どもたちにも伝わるよ。完璧じゃなくてもいいじゃない」
電話を切った後、美咲は机に向かった。完璧を求めすぎていたのかもしれない。まずは子どもたちと一緒に、一歩ずつ進んでいこう。
翌日、美咲は子どもたちに正直に話した。
「みんな、ごめんなさい。先生も発芽カリキュラムは初めてで、戸惑っています。でも、みんなと一緒に新しい学び方を見つけていきたいんです」
教室が静まり返った。
「先生も分からないの?」
健太が心配そうに聞いた。
「うん、分からないことだらけ。でも、それっていけないことかな?」
美咲は子どもたちの顔を見回した。
「先生だって、毎日新しいことを学んでいる。みんなと同じなんです」
花音が手を挙げた。
「じゃあ、私たちも先生と一緒に考えてもいいですか?」
「もちろん。むしろ、みんなの意見を聞かせてほしい」
子どもたちの表情が明るくなった。
「僕、給食センターに見学に行ってみたい」
健太が提案した。
「私は、栄養士さんにインタビューしてみたい」
花音も続いた。
「それぞれのアイデアを実現していこう。先生も一緒に学ばせてもらいます」
美咲の言葉に、教室に活気が戻った。
第2話完
※この物語はフィクションです。登場する人物・組織名等は架空のものであり、実在の人物・企業とは関係ありません。
前回「新しい風」 – 美咲先生の赴任と発芽カリキュラムとの出会い