※この物語はフィクションです。
第15章 赤い灯
リモコンに点滅する赤い光。全てを吹き飛ばす脅威の前で、高田は最後の決断を下す。
赤いランプが点滅を続け、ホーム全体が異様な緊張に飲み込まれていた。
影の指揮者は無言でリモコンを掲げ、その小さな装置が巨大な都市の命運を握っていることを誇示する。
佐伯は銃を構えた。
「それ以上操作すれば発砲する!」
しかし男は微笑を浮かべたまま、ゆっくりと親指をボタンにかける。
「撃てるか? ここで私を撃てば、誰も解除コードを知らぬまま装置が作動する」
三浦の額に汗がにじむ。
「解除コード……つまりあのリモコン自体がトリガーじゃなく、遠隔の中継器……?」
影の指揮者はその言葉を肯定するかのように笑った。
「そうだ。これはあくまで合図に過ぎない。君たちの動きはすべて想定済みだ」
沈黙を破ったのは高田だった。
「違う!」
彼は隊員に押さえられながらも前へ出た。
「解除コードなら俺が知ってる! USBの奥に隠されてたファイルだ! あんたが俺に盗ませたときから、ずっと埋め込まれてた!」
影の指揮者の表情がわずかに歪んだ。
「……なるほど。そこまで見ていたか」
佐伯は即座に判断した。
「三浦、ノートPCを用意しろ! 高田、入力できるのか?」
「できる。だが時間がねえ!」
赤いランプの点滅が速くなる。
構内放送がかき消され、空気そのものが緊張で震えているようだった。
三浦が震える手でPCを差し出す。
高田はUSBを差し込み、目にも止まらぬ速さでキーを叩き始めた。
画面には無数の数字と文字列が流れ、やがてひとつのプロンプトが現れる。
《Enter Override Key》
「来い……!」
高田は息を詰め、指を止める。脳裏に浮かぶのは過去の記憶。市場で男に声をかけられた瞬間、犯罪の道へ引き込まれた夜、そして今まで逃げ続けてきた日々。
「……終わらせる」
彼の指が最後のキーを叩いた瞬間、赤いランプがふっと消えた。
構内の空気が一気に解放され、人々のざわめきが戻る。
三浦は息を吐き、涙をこらえながら叫んだ。
「成功……止まった!」
だが影の指揮者はなお微笑を崩さなかった。
「よくやった、高田。だが忘れるな。君は私の弟子だ。たとえ今日ここで私が倒れても、君の中には私が残る」
その言葉に高田の拳が震えた。
「もう俺は……お前の駒じゃねえ!」
佐伯が銃口を定める。
「影の指揮者、逮捕する!」
緊張の糸が切れる直前、ホームに警報が鳴り響いた。
《注意:構内の別セクションで異常を検知》
全員が一斉に振り返る。
戦いは、まだ終わっていなかった。
【次回予告】
第16章 最後の罠
爆発物の真の標的は貨物線。物流を止める影の狙いに、警察隊は再び走り出す。
登場人物
佐伯涼介(35)
鉄道警察隊の巡査部長。冷静で論理的。家族を顧みず仕事に没頭してきた。
三浦真帆(28)
新人隊員。正義感が強いが経験不足。佐伯に反発しつつ尊敬もしている。
高田健吾(45)
老練なスリ師。かつては刑務所暮らし、今は仲間を率いる。だが「なぜか高リスクなターゲットばかり狙う」違和感。
イブラヒム(32)
外国人労働者。真面目に働いていたが、祖国の紛争で家族を失い、日本で過激派の片棒を担がされる。