※この物語はフィクションです。
第16章 最後の罠
爆発物の真の標的は貨物線。物流を止める影の狙いに、警察隊は再び走り出す。
赤いランプが消え、誰もが安堵の息を漏らした瞬間、構内全体にけたたましい警報が響き渡った。
《注意:構内南側セクションで異常を検知》
佐伯が顔を上げる。
「南側……在来線ホームか!」
三浦が端末を確認し、青ざめた。
「はい、在来線の貨物ホームです。爆薬反応が……複数!」
その言葉に、一同の血の気が引いた。
人々が集中する新幹線ホームを囮にして、真の標的は貨物線だった。
もし爆発すれば、輸送網は壊滅し、東京全域の物流が麻痺する。
影の指揮者は微笑を崩さず、ゆっくりと両手を広げた。
「君たちは“見えるもの”ばかりに気を取られた。都市を支えるのは人の移動だけではない。物資を止めれば街は死ぬ」
高田は歯を食いしばった。
「……まだ仕掛けてやがったのか」
佐伯はすぐに指示を飛ばす。
「爆発物処理班を貨物ホームへ! ただし、時間がない。リモートで解除できる手段を探せ!」
三浦は必死に端末を操作した。
「爆薬は複数個、列車のコンテナに仕掛けられています。しかもタイマーは……残り十五分!」
緊迫した空気の中、高田が立ち上がった。
「USBの奥に“連鎖起爆プログラム”のデータがあった。あれを逆手に取れば、遠隔で遮断できるはずだ」
佐伯は険しい眼差しを向ける。
「だがそれを操作できるのは、お前だけだ」
「そうだ。だから俺がやる」
影の指揮者が冷ややかに笑った。
「やはり君は私の弟子だ。行動の全てが、私の思惑の上にある」
高田は拳を震わせた。
「違う。俺はお前の“駒”じゃない。俺の意思で、この街を守る!」
三浦が必死に頷く。
「信じます。今度こそ……あなた自身の選択で」
貨物ホームまでの道を走る隊員たち。
その背後で、影の指揮者は拘束されながらも静かに笑みを浮かべ続けていた。
まるでまだ、別のカードを握っているかのように。
残り時間は十五分。
都市の血流を止める最終罠を前に、彼らは再び走り出した。
【次回予告】
第17章 貨物ホームの残響
複数の爆薬が連動する危機。遠隔からの干渉が続く中、影の存在は二重構造を示し始める。
登場人物
佐伯涼介(35)
鉄道警察隊の巡査部長。冷静で論理的。家族を顧みず仕事に没頭してきた。
三浦真帆(28)
新人隊員。正義感が強いが経験不足。佐伯に反発しつつ尊敬もしている。
高田健吾(45)
老練なスリ師。かつては刑務所暮らし、今は仲間を率いる。だが「なぜか高リスクなターゲットばかり狙う」違和感。
イブラヒム(32)
外国人労働者。真面目に働いていたが、祖国の紛争で家族を失い、日本で過激派の片棒を担がされる。