※この物語はフィクションです。
第17章 貨物ホームの残響
複数の爆薬が連動する危機。遠隔からの干渉が続く中、影の存在は二重構造を示し始める。
貨物ホームは、人影もなく静まり返っていた。
だがコンテナ群の隙間に、規則正しく点滅する赤い光がいくつも潜んでいる。
爆薬処理班が駆け込み、特殊装備を展開した瞬間、緊迫した声が無線に響いた。
「確認しました。複数の起爆装置を検知! しかもすべてネットワークで連動しています!」
三浦が端末を覗き込み、息を呑む。
「一つでも解除に失敗したら、全て同時に爆発する……!」
残り時間は十二分を切っていた。
赤いランプは無情に点滅を速め、カウントダウンを告げているかのようだった。
佐伯は即座に決断した。
「高田、USBのコードで連鎖を切断できるんだな?」
「……理屈上はな」
高田は息を荒げながら頷いた。
「ただし、これをやれば俺の痕跡は完全に残る。影の指揮者に仕込まれた“弟子の証拠”が世間に晒されるだろう」
三浦が震える声で言った。
「そんなこと、気にしている場合じゃない! あなたしかできないんです!」
高田は目を閉じ、一瞬だけ迷った。
だが次の瞬間、拳を握りしめて叫んだ。
「俺は盗んでばかりの人生を終わらせる! 今度は返すんだ──街を、未来を!」
彼はPCを開き、怒涛の勢いでコードを走らせた。
画面に無数の数字が流れ、赤い警告が次々と消えていく。
だが途中で画面がフリーズし、低い電子音が響いた。
《Override Conflict Detected》
「干渉だ!」
解析員が叫ぶ。
「誰かが遠隔から再起動をかけている!」
その時、無線から低く笑う声が流れた。
「やはり君はここまで来たな。だが忘れるな、高田。解除コードは私が与えたものだ。君の運命は、最後まで私の掌の中にある」
影の指揮者の声だった。
拘束されているはずの彼が、どうして通信を?
三浦が青ざめる。
「まさか……もう一人“影”が?」
赤いランプの点滅は止まらない。
残り時間は七分を切っていた。
佐伯は銃を握りしめ、短く命じた。
「全隊員、影の二重構造を想定しろ。ここが最終局面だ!」
貨物ホームの闇に、まだ見ぬ“最後の切り札”が潜んでいる。
その気配を背に、高田は再びキーボードを叩き始めた。
指先の震えが、運命のカウントダウンを刻んでいた。
【次回予告】
第18章 決断の刻
残り数分。すべてを晒してでも守るか、それとも過去に縛られるか。高田の指先が運命を変える。
登場人物
佐伯涼介(35)
鉄道警察隊の巡査部長。冷静で論理的。家族を顧みず仕事に没頭してきた。
三浦真帆(28)
新人隊員。正義感が強いが経験不足。佐伯に反発しつつ尊敬もしている。
高田健吾(45)
老練なスリ師。かつては刑務所暮らし、今は仲間を率いる。だが「なぜか高リスクなターゲットばかり狙う」違和感。
イブラヒム(32)
外国人労働者。真面目に働いていたが、祖国の紛争で家族を失い、日本で過激派の片棒を担がされる。