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【ドラマ】灼熱の野望【後編】失われた日本への架け橋|ベトナム・ダナン視察記

ベトナムドラゴンブリッジの前で信号待ちをする無数のバイク

※この物語は実際のベトナム視察レポートをもとにしていますが、ドラマチックな演出のためフィクションを含んでいます。


目次

第九章 ―成長の影―

バーナーヒルズから戻る車の中、俺たちは沈黙していた。

あまりにも圧倒的な体験だったからだ。

だが、街に戻ってくると、俺は別の光景に気づいた。

「グエンさん、渋滞がひどくないですか?」

「ええ……」

グエンさんの表情が、少し曇る。

「ダナンの成長が早すぎて、インフラが追いついていないんです」

窓の外を見ると、無数のバイクが道路を埋め尽くし、クラクションが鳴り響いている。排気ガスで、空気が少し霞んで見える。

「大気汚染も、問題になりつつあります」

グエンさんが静かに言う。

「それに、観光開発による自然環境への負荷も」

田中が真剣な表情で尋ねる。

「でも、開発を止めるわけにはいかないですよね?」

「ええ。止めたら、経済が止まる。雇用が失われる」

「じゃあ、どうするんですか?」

グエンさんは少し考えてから答えた。

「走りながら、考えるんです」

「走りながら?」

「そうです。課題があるのは分かってる。でも、立ち止まらない。前に進みながら、解決策を探す。それがベトナムのやり方です」

俺は窓の外を見つめた。

渋滞。大気汚染。環境破壊。

成長の代償は、確かにある。

だが、彼らは立ち止まらない。

「これが……」

俺は呟いた。

「これが、挑戦するということか」


第十章 ―夜の対話―

その夜、ホテルのバーで、俺と田中は二人きりで話していた。

「課長、正直に聞いていいですか」

田中がビールを一口飲んでから言う。

「日本は、もう一度ベトナムみたいになれると思いますか?」

「……難しいな」

俺は正直に答えた。

「日本には、もう失うものがあるからだ」

「失うもの?」

「ああ。豊かさ、安定、安全。それを手に入れた国は、リスクを取りにくくなる。ベトナムは違う。彼らは、まだ『失うものがない』から、全力で挑戦できる」

田中が考え込む。

「じゃあ、日本はもうダメなんですか」

「そうは言ってない」

俺はグラスを置いて、田中を見た。

「日本には、ベトナムにないものがある」

「何ですか?」

「技術の蓄積。文化の深み。信頼というブランド」

俺は言葉を続ける。

「問題は、それをどう活かすかだ。40年前の成功体験に縛られて、新しい挑戦を恐れていたら、本当に終わる」

「じゃあ、どうすれば……」

「ベトナムの熱量と、日本の強みを掛け合わせる」

田中の目が輝いた。

「それが、俺たちがここに来た理由か」

「ああ」

その時、バーのテレビに、サングループのニュースが流れた。

新しい空港開発プロジェクトの発表だ。

「まだ、攻め続けてる……」

田中が呟く。

「彼らは、止まらないんだ」


第十一章 ―もう一つの真実―

翌朝、グエンさんが俺たちを別の場所へ連れて行った。

「今日は、バーナーヒルズではない場所をお見せします」

車は、ダナンの郊外へと向かう。

到着したのは、建設中の巨大な複合施設だった。

「ここは?」

「サングループの新プロジェクトです。ショッピングモール、ホテル、オフィス、住宅。すべてが一体になった街を作ろうとしているんです」

クレーンが何台も動いている。作業員たちが、休むことなく働いている。

「すごいスピードですね」

田中が感心する。

「ええ。でも、それがベトナムの強さでもあり、弱さでもあるんです」

グエンさんが複雑な表情で言う。

「どういう意味ですか?」

「スピードを優先するあまり、安全性や持続可能性が疎かになることがある。それが、時々問題を起こすんです」

俺は考え込んだ。

「日本は逆だな」

「え?」

「日本は、安全性や品質を優先するあまり、スピードが遅くなる。どちらも一長一短だ」

グエンさんが頷く。

「その通りです。だから、お互いから学べることがあるんです」


第十二章 ―岩崎弥太郎の亡霊―

建設現場を後にして、俺たちは海沿いのカフェで休憩していた。

「課長、さっきから考え込んでますね」

田中が言う。

「ああ……明治維新のことを思い出していた」

「明治維新?」

「岩崎弥太郎って知ってるか?」

「三菱の創業者ですよね」

「そうだ。彼は、官と民が一体となって、日本を近代化させた時代の象徴だ」

俺はコーヒーを一口飲んだ。

「サングループとベトナム政府の関係を見ていると、あの時代を思い出すんだ」

グエンさんが興味深そうに身を乗り出す。

「詳しく聞かせてください」

「明治時代、日本は欧米列強に追いつくために、国を挙げて挑戦した。政府が方向性を示し、民間企業がそれを実現する。リスクは高かったが、スピードも速かった」

「今のベトナムと同じですね」

「ああ。でも、日本はそれを忘れてしまった」

田中が尋ねる。

「なぜ忘れたんですか?」

「成功したからだ」

俺は海を見つめた。

「豊かになり、安定し、守るものが増えた。そして、挑戦することを恐れるようになった」


第十三章 ―五感で得た真実―

「グエンさん、一つ聞いていいですか」

田中が尋ねる。

「なぜ、俺たちに本当のベトナムを見せてくれるんですか?良いところだけじゃなく、課題も」

グエンさんが微笑む。

「それが、本当の学びだからです」

「本当の学び?」

「ええ。インターネットで情報を集めるだけでは、わからないことがある。実際に来て、見て、聞いて、感じる。五感で体験して初めて、本当の理解が生まれるんです」

俺は深く頷いた。

「その通りだ」

実際、この数日間で俺たちが得たものは、どんな報告書よりも価値があった。

灼熱の太陽。バイクの喧騒。人々の笑顔。建設現場の音。食事の味。

すべてが、ベトナムの「今」を伝えていた。

「課長」

田中が真剣な表情で言う。

「俺、日本に帰ったら、もっと挑戦します」

「おう」

「40年前の価値観に留まってちゃダメだって、わかりました。常にアップデートし続けないと」

グエンさんが嬉しそうに笑う。

「それが、あなたたちが日本に持ち帰るべきものです」


第十四章 ―最後の夜―

視察最終日の夜。

俺たちは再び、ホテルの屋上に立っていた。

眼下に広がるダナンの夜景。無数の光が、街の鼓動を伝えてくる。

「課長、あれ見てください」

田中が指さす先に、ドラゴンブリッジが見える。

週末の夜、橋は炎と水を吹き出すショーを行う。

「すげえ……」

橋の口から、赤い炎が夜空を照らす。そして、水が噴き出す。

観光客たちの歓声が、ここまで聞こえてくる。

「あの橋も、サングループが作ったんですか?」

田中がグエンさんに尋ねる。

「いえ、あれは市の事業です。でも、サングループの成功が、この街全体に挑戦する気持ちを広げたんです」

「一つの成功が、街全体を変えた……」

俺は呟いた。

「課長、俺たち、何を持って帰りますか?」

田中の問いに、俺はゆっくりと答えた。

「熱量だ」

「熱量?」

「ああ。挑戦する熱量。失うことを恐れず、前に進む勇気。それを、日本に持って帰る」


第十五章 ―ザ・ブリッジとして―

空港へ向かう車の中。

グエンさんが、最後に言葉をくれた。

「お二人は『ザ・ブリッジ』というチーム名だと聞きました」

「ええ、そうです」

「素晴らしい名前ですね。橋は、二つのものをつなぐ。日本とベトナム。過去と未来。課題と解決策」

グエンさんが俺たちを見つめる。

「あなたたちは、本当の橋になれると思います」

「ありがとうございます」

田中が深く頭を下げる。

「グエンさん、一つだけ約束します」

俺が言う。

「俺たちは、ここで学んだことを、必ず日本で活かします。そして、いつかベトナムと日本をつなぐ、本当の橋になります」

グエンさんが微笑んだ。

「楽しみにしています」


第十六章 ―帰路―

飛行機の窓から、ダナンの街が遠ざかっていく。

「課長」

田中が隣の席から話しかけてくる。

「俺、やっと分かった気がします」

「何が?」

「日本が失ったものと、日本が持ってるもの」

俺は田中を見た。

「説明してみろ」

「日本が失ったのは、挑戦する熱量です。でも、日本が持ってるのは、技術と信頼と文化の深み」

「そうだな」

「だから、俺たちがやるべきことは、ベトナムの熱量を学んで、日本の強みと掛け合わせることです」

俺は笑った。

「お前、成長したな」

「課長のおかげです」


第十七章 ―日本への示唆―

成田空港に降り立った瞬間、俺たちは「日本」を感じた。

整然とした通路。綺麗なトイレ。正確な時刻表。親切なスタッフ。

「やっぱり、日本は素晴らしいですね」

田中が言う。

「ああ。でも、これに甘えちゃいけない」

「はい」

俺たちは、失われた35年を嘆くのではなく、今ある日本の強みと、ベトナムから学んだ視点を掛け合わせるべきだ。

挑戦する熱量を忘れず、柔軟に変化を受け入れる。

それが、これからの日本に必要な姿勢だ。


第十八章 ―会議室にて―

帰国後、最初の月曜日。

俺たちは、視察報告のプレゼンを行った。

会議室には、部長以下、20名ほどのメンバーが集まっている。

「では、報告を始めます」

田中がスクリーンを操作する。

バーナーヒルズの写真。世界一のロープウェイ。ゴールデンブリッジ。ダナンの夜景。

そして、レ・ベト・ラムの軌跡。

「彼は、1億ドル以上を故郷ベトナムに持ち帰り、国の未来を創ることに人生を懸けました」

田中の声に、力がこもる。

「サングループは、後追いではなく、独自の道を選んだ。自国の文化を信じ、世界に打ち出した」

部長が口を開く。

「で、我々は何を学べばいいんだ?」

俺が答える。

「挑戦する熱量です」

「熱量?」

「はい。日本には技術がある。文化がある。信頼というブランドがある。でも、それを活かす『挑戦する熱量』が足りない」

部長が腕を組む。

「具体的には?」

「失うことを恐れず、新しい市場に打って出る。短期的な利益ではなく、10年後、20年後を見据えた投資をする。そして、官民一体で国家戦略を実行する」

会議室が、静かになる。

「課長」

若手の一人が手を挙げる。

「でも、リスクが高すぎませんか?」

「高い」

俺は即答した。

「でも、挑戦しなければ、確実に衰退する。どちらを選ぶかだ」


第十九章 ―新しい挑戦―

会議が終わった後、部長が俺を呼び止めた。

「課長、いい報告だった」

「ありがとうございます」

「実は、本社が新プロジェクトを立ち上げる。東南アジア市場への本格進出だ」

俺の心臓が、早鐘を打った。

「そのプロジェクトリーダーに、お前を推薦しようと思う」

「本当ですか!」

「ベトナムで何かを掴んだんだろう?それを活かしてくれ」

部長が俺の肩を叩く。

「日本と世界をつなぐ、本当の『ブリッジ』になってくれ」


エピローグ ―未来への架け橋―

その夜、俺は再びバーで、田中と二人きりで飲んでいた。

「課長、おめでとうございます」

「お前も来るんだぞ。このプロジェクト」

「え、本当ですか!」

田中の目が輝く。

「ああ。お前がいないと、このプロジェクトは成功しない」

俺たちはグラスを掲げた。

「ベトナムで学んだことを、必ず実現させる」

「はい!」

グラスが、乾いた音を立てる。

窓の外には、東京の夜景が広がっている。

ダナンの夜景とは違う。でも、この街にも、確かに光がある。

「日本は、まだ終わっちゃいない」

俺は呟いた。

「必ず、再び立ち上がれる」

田中が頷く。

「俺たちが、その第一歩になりましょう」

そうだ。

俺たちは「ザ・ブリッジ」だ。

日本と世界をつなぐ架け橋。

過去と未来をつなぐ架け橋。

課題と解決策をつなぐ架け橋。

ベトナムのダイナミズムから得た気づきを共有し、新しい未来を描いていく。

それが、この灼熱の地で得た、最大の収穫だった。


一週間後

俺のデスクに、一通のメールが届いた。

差出人は、グエンさんだった。

件名:ダナンより

お二人、お元気ですか?
先日、バーナーヒルズに新しいアトラクションができました。
また、ダナンに来てください。
この街は、止まることなく進化し続けています。

そして、日本での新しい挑戦、楽しみにしています。
私も、ベトナムから応援しています。

お二人は、本当の「ブリッジ」です。

グエン

俺は微笑んだ。

そして、返信を書き始めた。

グエンさん

ありがとうございます。
私たちは、新しいプロジェクトを始めました。
必ず成功させて、またダナンに報告に行きます。

その時は、私たちが日本で創った「新しい何か」を、
ぜひ見てください。

日本とベトナム、両方の良さを掛け合わせた、
世界にないものを創ります。

また会いましょう。
灼熱の街で。

課長より

送信ボタンを押す。

窓の外、大阪の街が、夕日に染まっていく。

この街も、かつては「東洋のマンチェスター」と呼ばれ、世界に挑戦していた。

その血は、まだ俺たちの中に流れている。

「さあ、始めるか」

俺は立ち上がった。

新しい挑戦が、今、始まる。


【完】


あとがき

2025年夏、ベトナム・ダナンでの5日間は、私たちの価値観を大きく揺さぶった。

世界一のロープウェイ。1億ドルから始まった野望。挑戦を止めない人々。

そして、気づいた。

日本が失ったのは、技術でも文化でもない。

挑戦する熱量だ。

でも、まだ終わっちゃいない。

私たち「ザ・ブリッジ」は、日本と世界をつなぐ架け橋として、新しい未来を創っていく。

ベトナムの鼓動を胸に、日本の強みを武器に。

挑戦は、今、始まったばかりだ。

【後編・完】

【前編へ戻る】

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