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地域創生リーグ〜地方と都会の逆転劇〜第3章:ふるさと納税の限界

目次

第一部:絶望

年間5億円の寄付でも実質収入はわずか1億円。返礼品競争の過熱、都市部の反発――ふるさと納税だけでは地方は救えない。小林が見出した突破口は、地方創生フォーラムに集う4人の専門家たちだった。第3章。

※この物語は政策エンタメのメソッドによって書かれたフィクションです。

第3章:ふるさと納税の限界


2025年11月18日、夕焼市役所。

小林拓也は、市長室の前に立っていた。

東京から戻って、2日が経っていた。

ノックする。

「どうぞ」

中から、倉田市長の声。


小林は、ドアを開けた。

「倉田さん、お時間いただけますか」

倉田は、書類から目を上げた。

「ああ、小林くん。座ってくれ」

小林は、椅子に腰を下ろした。


倉田は、湯飲みにお茶を注いだ。

「東京は、どうだった?」

「……厳しかったです」

小林は、正直に答えた。

倉田は、頷いた。

「だろうな」


小林は、鞄から資料を取り出した。

「でも、一つだけ条件を出されました」

「条件?」

「はい。データを示せ、と」

小林は、大河内部長との会話を説明した。


倉田は、腕を組んだ。

「データか……」

「費用対効果、財政シミュレーション、住民の同意率」

「それを数字で示せば、検討してくれる、と」

倉田は、ため息をついた。

「簡単じゃないな」

「はい……」


倉田は、窓の外を見た。

「小林くん、現実を見てほしい」

「え?」

「うちの市には、そんなデータを作る人材がいない」

倉田は、小林を見た。

「予算もない」


小林は、黙った。

倉田は、続けた。

「東京の大手シンクタンクに頼めば、数百万円かかる」

「そんな金、うちにはない」

「それに……」

倉田は、別の書類を取り出した。


夕焼市の職員数:

  • 正規職員:120人
  • 臨時職員:30人
  • 合計:150人

「10年前は、200人いたんだ」

倉田は、言った。

「財政破綻で、50人減らした」

「残った職員は、みんな疲弊してる」


小林は、資料を見た。

職員1人あたりの市民数:

  • 夕焼市:40人/職員
  • 全国平均:90人/職員

「むしろ、職員数は多いんですね」

小林は、呟いた。

倉田は、頷いた。

「人口が減りすぎた」

「職員を減らしても、仕事は減らない」

「むしろ、高齢化で福祉の仕事が増えてる」


小林は、窓の外を見た。

市役所の駐車場。

古い軽自動車が数台、停まっている。

「倉田さん……この街、本当に厳しいんですね」

倉田は、微笑んだ。

「今さら気づいたか」


「でも……」

小林は、倉田を見た。

「ふるさと納税、頑張ってますよね?」

倉田の表情が、少し明るくなった。

「ああ、それは頑張ってる」

「見せてもらえますか?」

「いいだろう」


30分後。

小林は、企画課の一室にいた。

壁には、ポスターが貼られている。

「夕焼メロン、全国へ!」

デスクには、若手職員が3人。

パソコンと向き合っている。


「こちらが、ふるさと納税の担当チームです」

倉田が、紹介した。

「みんな、こちらは小林拓也さん。誠一さんの息子だ」

3人が、立ち上がった。

「よろしくお願いします」

小林も、頭を下げた。


「こちらが、リーダーの佐々木くん」

倉田が、一番若い職員を指した。

佐々木健太

眼鏡をかけた、真面目そうな青年。

「佐々木です。よろしくお願いします」

「小林です。お願いします」


佐々木は、パソコンの画面を見せた。

ふるさと納税ポータルサイト:

  • 「ふるさとチョイス」
  • 「さとふる」
  • 「楽天ふるさと納税」

「これらのサイトに、夕焼市の返礼品を掲載してます」


小林は、画面を見た。

夕焼市の返礼品:

  1. 夕焼メロン(2玉) – 寄付額:10,000円
  2. 温泉宿泊券(1泊2食) – 寄付額:30,000円
  3. 夕焼ハム詰め合わせ – 寄付額:15,000円
  4. 夕焼米(10kg) – 寄付額:12,000円

「メロンが、一番人気です」

佐々木は、言った。


小林は、メロンの写真を見た。

鮮やかなオレンジ色。

艶のある表面。

「これ……美味しそうですね」

「はい。夕焼メロンは、ブランドですから」

佐々木は、誇らしげに言った。


倉田が、資料を取り出した。

ふるさと納税の実績(過去5年):

  • 2020年度:1億円
  • 2021年度:2億円
  • 2022年度:3億円
  • 2023年度:4億円
  • 2024年度:5億円

「順調に伸びてる」

倉田は、言った。


「でも……」

佐々木が、別の資料を見せた。

経費の内訳:

  • 返礼品コスト:2.5億円(50%)
  • 送料:0.5億円(10%)
  • サイト手数料:0.5億円(10%)
  • 事務費:0.5億円(10%)
  • 実質収入:1億円(20%)

「寄付額5億円のうち、実際に市の収入になるのは1億円だけです」


小林は、数字を見つめた。

「80%が、経費……」

「はい」

佐々木は、頷いた。

「返礼品を豪華にしないと、選んでもらえない」

「でも、豪華にすればするほど、コストがかかる」


倉田が、ため息をついた。

「ジレンマなんだ」

「返礼品競争が、過熱してる」

「他の自治体も、必死だ」

「和牛、カニ、家電……」

「うちは、メロンで勝負してるが……」


小林は、別の画面を見せてもらった。

全国のふるさと納税ランキング(2024年度):

  1. 宮崎県都城野市:154億円
  2. 北海道万別市:146億円
  3. 北海道音室市:142億円 …
  4. 北海道夕焼市:5億円

「うちは、523位です」

佐々木は、苦笑した。


「でも、頑張ってる方ですよね?」

小林は、言った。

倉田は、首を振った。

「全然足りない」

「夕焼市の財政、覚えてるか?」

「歳入102億円。そのうち自主財源は8億円」

「ふるさと納税の実質収入、1億円」

「焼け石に水だ」


小林は、黙った。

佐々木が、言った。

「それに……問題はもう一つあります」

「何ですか?」

「都市部の税収流出です」


佐々木は、別の資料を見せた。

ふるさと納税による税収流出(2024年度):

  • 東京都:1,200億円
  • 神奈川県:300億円
  • 大阪府:250億円

「都市部の住民が、地方に寄付する」

「その分、都市部の住民税が減る」

「つまり、都市部の自治体は税収が減るんです」


「特に東京23区は、激怒してます」

佐々木は、ニュースサイトを開いた。

見出し: 「湊戸区長『ふるさと納税は制度の歪み』と痛烈批判」

小林は、記事を読んだ。


湊戸区長のコメント: 「湊戸区の住民が他の自治体に寄付することで、 湊戸区の税収は年間200億円も減少している。 これは制度の歪みだ。 本来、湊戸区で使われるべき税金が、 返礼品目当ての寄付に使われている」


小林は、画面から目を離した。

「湊戸区……」

呟いた。

倉田が、言った。

「そうだ。湊戸区は、ふるさと納税の最大の被害者だ」

「だから、小林くんの構想——」

「湊戸区が夕焼市を支援する、なんて……」

倉田は、首を振った。

「絶対に無理だ」


小林は、窓の外を見た。

曇り空。

今にも雨が降りそうだ。

「倉田さん……ふるさと納税だけじゃ、この街は救えないんですね」

倉田は、頷いた。

「ああ」


「でも……」

倉田は、小林を見た。

「だからといって、諦めるわけにはいかない」

「できることを、やるしかない」

「それが、俺たちの仕事だ」


小林は、倉田を見た。

白髪。

しわだらけの顔。

それでも、目には力がある。

「この街を、最後まで守る」

倉田は、言った。

「それが、誠一さんとの約束だ」


小林は、立ち上がった。

「倉田さん、ありがとうございました」

「どういたしまして」

倉田も、立ち上がった。

「小林くん、無理するな」

「お前一人で、この街を背負う必要はない」


小林は、頭を下げた。

そして、市長室を出た。

廊下を歩く。

階段を降りる。

1階のロビー。


ロビーには、数人の高齢者が座っていた。

市の福祉課に、相談に来たのだろう。

みんな、疲れた表情をしている。

小林は、立ち止まった。

「この人たちを……守らなきゃいけない」

呟いた。


その夜。

小林は、父の家に戻った。

リビングに座る。

テーブルには、ふるさと納税のパンフレットが置いてあった。

「夕焼メロン、全国へ!」

小林は、パンフレットを手に取った。


メロンの写真。

温泉の写真。

笑顔の農家の写真。

「みんな、頑張ってるんだな……」

小林は、呟いた。


しかし。

「これだけじゃ、足りない」

小林は、パンフレットを置いた。

「ふるさと納税は、素晴らしい制度だ」

「でも……」


小林は、ノートを開いた。

メモを書く。

ふるさと納税の限界:

  1. 個人の善意に依存(不安定)
  2. 返礼品競争(コスト増)
  3. 都市部の税収流出(反発)
  4. 実質収入は寄付額の20%程度
  5. 構造的な問題は解決しない

「やっぱり……別の仕組みが必要だ」

小林は、呟いた。

「自治体間の、構造的な支援」

「スポーツリーグみたいに」


小林は、スマートフォンを取り出した。

「地方創生フォーラム2025」の申し込み確認メールが届いていた。

日時:11月20日(土)13:00〜17:00 場所:東京国際フォーラム

「あと2日……」

小林は、呟いた。


「このフォーラムで……誰か、協力してくれる人を見つけないと」

小林は、立ち上がった。

パソコンを開く。

フォーラムの詳細を確認する。


登壇者:

  • 神山健二(大学教授、行動経済学)
  • 桜井美咲(元横浜野市財務局長、現コンサルタント)
  • 結城剛(湊戸区の経営者、地域活性化団体代表)
  • 高瀬麗子(衆議院議員、地方創生特別委員会)

「この人たちが……」

小林は、画面を見つめた。


小林は、それぞれの名前を検索した。

神山健二教授:

  • 行動経済学の第一人者
  • 著書『人を動かす経済学』がベストセラー
  • 政府の審議会委員も務める

「行動経済学……」

小林は、呟いた。

「人間心理を使った制度設計」

「これは、使えるかもしれない」


桜井美咲:

  • 元横浜野市財務局長
  • 財政再建のスペシャリスト
  • 現在は独立コンサルタント

「財政のプロ……」

小林の目が、輝いた。

「シミュレーションを作ってもらえるかもしれない」


結城剛:

  • 湊戸区でIT企業を経営
  • 地域活性化団体「TOKYO LINK」代表
  • 都市と地方を繋ぐ活動をしている

「都市と地方を繋ぐ……」

小林は、メモを取った。

「この人なら、湊戸区の住民を説得できるかもしれない」


高瀬麗子:

  • 衆議院議員、野党
  • 地方創生特別委員会の委員
  • 地方出身、地方創生に熱心

「政治家……」

小林は、考えた。

「最終的には、法律を変えないといけない」

「この人の協力が必要だ」


小林は、ノートに書いた。

フォーラムでやるべきこと:

  1. 神山教授に、行動経済学の視点で助言をもらう
  2. 桜井さんに、財政シミュレーションを依頼する
  3. 結城さんに、都市住民の説得方法を相談する
  4. 高瀬議員に、政治的な実現可能性を聞く

「これだ……」

小林は、呟いた。


時計を見る。

午後11時。

外は、雨が降り始めていた。

小林は、窓を開けた。

冷たい風が、部屋に入ってくる。


「父さん……」

小林は、呟いた。

「俺、まだ諦めてないよ」

「この街を、絶対に救う」

「だから……見守っててくれ」


雨が、強くなってきた。

小林は、窓を閉めた。

パソコンに向かう。

「自治体財政リーグ構想」のファイルを開く。

書き続ける。


深夜2時。

小林は、まだ書いていた。

キーボードを叩く音だけが、部屋に響いていた。


◀第2章目次第4章▶

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