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地域創生リーグ〜地方と都会の逆転劇〜9章:D1・D2リーグ

目次

第二部:創造

D2ではなくチャレンジリーグ。最下層ではなく挑戦者——言葉が変われば心理が変わる。小さな成功体験理論で昇格ハードルを下げ、降格した自治体には再建支援チーム派遣。クラウドファンディングで当事者意識を。完璧な制度設計。

※この物語は政策エンタメのメソッドによって書かれたフィクションです。

第9章:D1・D2リーグ

2026年1月5日午後3時、夕焼市役所。

小林拓也と倉田誠市長は、会議室で資料を広げていた。
テーブルには、コーヒーカップと菓子パンの包み紙。
二人は、朝から8時間、ぶっ通しで作業していた。

「これで……何枚目だ?」
倉田が、疲れた声で聞いた。
小林は、資料を数えた。
「45枚です」
「まだ足りないか……」
「あと5枚、写真を入れましょう」

小林は、カメラのSDカードをパソコンに差し込んだ。
昨日撮影した、夕焼市の風景。
閉鎖された小学校。
錆びた遊具。
誰もいない商店街。
しかし——
老人ホームで笑う高齢者。
メロン畑で働く農家。
夕焼けに染まる街並み。

「この写真……使えるか?」
小林が、倉田に見せた。
夕焼けの写真。
オレンジ色の空。
シルエットになった街並み。
美しい。

倉田は、じっと見つめた。
「……ああ。使おう」
「この街の名前、『夕焼市』だしな」
倉田の目が、潤んでいた。
「この夕焼けを、守りたい」

小林は、その写真をプレゼン資料の最後に入れた。
タイトルを付ける。
「この夕焼けを、一緒に守りませんか」

倉田が、立ち上がった。
「よし。できたな」
「はい。あとは、神山教授に最終チェックをしてもらいます」
小林は、ファイルを保存した。

その時。
小林のスマートフォンが鳴った。
桜井美咲からだ。
「もしもし」
「小林さん、今、時間ある?」
桜井の声が、緊迫していた。

「はい、大丈夫です」
「ペアリングのアルゴリズム、完成した」
「本当ですか!?」
小林は、立ち上がった。
倉田も、小林を見た。

「今から、データを送る。確認して」
「はい、お願いします」
数秒後。
小林のメールに、Excelファイルが届いた。

小林は、パソコンを開いた。
倉田も、横から覗き込む。
ファイルを開く。

Aリーグ×D2リーグ ペアリング表
湊戸区(東京都)→ 12自治体:

  1. 夕焼市(北海道)
  2. 歌山内市(北海道)
  3. 風間崎村(青森県)
  4. 上大阿仁村(秋田県)
  5. 津山野町(島根県)
  6. 吉永町(島根県)
  7. 大谷村(高知県)
  8. 馬道村(高知県)
  9. 二笠市(北海道)
  10. 東目屋村(青森県)
  11. 五津川村(奈良県)
  12. 椎木村(宮崎県)

千谷田区(東京都)→ 12自治体:

(以下、Aリーグ20自治体×12自治体=240自治体)

小林は、リストを見た。
「夕焼市……湊戸区とペアリングだ」
倉田も、見た。
「本当だ……」
二人は、顔を見合わせた。

小林のスマートフォンが、また鳴った。
桜井からだ。
「見た?」
「はい。夕焼市は、湊戸区とペアリングですね」
「そう。このアルゴリズムは、4つの変数で最適化してる」

桜井が、説明した。
「第一に、財政力指数。D2リーグの中で最も厳しい自治体を優先」
「第二に、人口減少率。将来的な消滅リスクが高い自治体を優先」
「第三に、地理的分散。1つのAリーグが、全国にバランス良く支援」
「第四に、特産品の多様性。返礼品の競合を避ける」

小林は、メモを取った。
「つまり、夕焼市は……」
「財政力指数と人口減少率が、D2リーグの中でもトップクラスに厳しい」
桜井の声が、冷静だった。
「だから、湊戸区——最も財政力のあるAリーグとペアリングした」

倉田が、複雑な表情をした。
「我々は……日本で最も厳しい自治体の一つなのか」
小林は、倉田の肩に手を置いた。
「でも、だからこそ、希望があるんです」
「湊戸区からの支援で、必ず立ち直れます」

桜井が、続けた。
「他にも重要なポイントがある」
「D1リーグとD2リーグの違いについて」
「説明していい?」
「お願いします」

小林は、スピーカーフォンにした。
倉田も、聞く。
桜井が、説明を始めた。

「D1リーグとD2リーグの最大の違いは、『昇格の難易度』」
「D2からD1への昇格は、比較的容易」
「しかし、D1からCへの昇格は、かなり難しい」

小林が、質問した。
「なぜですか?」
桜井が、答えた。
「心理学の『小さな成功体験』理論」
「人間は、大きな目標よりも、小さな目標を達成する方がモチベーションを維持しやすい」

「例えば、夕焼市がいきなりCリーグを目指すと、ハードルが高すぎる」
「でも、D2からD1への昇格なら、3〜5年で達成可能」
「この『小さな成功』が、次の目標への原動力になる」

倉田が、質問した。
「D2からD1への昇格条件は?」
桜井が、答えた。
「3つの指標」
「第一に、自主財源の増加率」
「第二に、人口の維持(減少率の改善)」
「第三に、ふるさと納税の増加」

小林が、メモを取った。
D2→D1昇格条件:
自主財源:年平均3%以上の増加
人口:減少率を半減
ふるさと納税:50%以上の増加
「これなら……達成できそうです」

桜井が、続けた。
「逆に、D1からCへの昇格は、もっと厳しい」
「自主財源の増加率10%以上」
「人口の維持または増加」
「企業誘致の実績」
「これは、10年単位の取り組みが必要」

倉田が、頷いた。
「段階的に、ステップアップしていくわけだな」
桜井が、答えた。
「その通り」
「サッカーのJ3→J2→J1みたいなもの」
「小さな昇格を積み重ねることで、自治体の体力を付ける」

小林が、質問した。
「降格は、ありますか?」
桜井が、答えた。
「ある」
「例えば、Cリーグが目標を達成できなければ、D1に降格」
「D1が目標を達成できなければ、D2に降格」
「ただし、降格した自治体には、特別支援がある」

「特別支援?」
倉田が、聞いた。
桜井が、説明した。
「降格した自治体は、『再建支援チーム』が派遣される」
「財政の専門家、経営コンサルタント、地域活性化の専門家」
「彼らが、自治体を立て直すためのプランを作る」

小林が、感動した。
「単なる競争じゃなくて、支え合いの仕組みなんですね」
桜井が、答えた。
「そう。スポーツリーグと同じ」
「弱いチームを見捨てるんじゃなくて、底上げする」
「リーグ全体が強くなることが、目的だから」

倉田が、質問した。
「桜井さん、一つ聞いていいか?」
「はい」
「Eリーグは、作らないのか?」

桜井が、答えた。
「作らない」
「理由は2つ」
「第一に、心理的な距離感」
「Eリーグを作ると、Aリーグとの距離が遠すぎる」
「『助けられない』『無理だ』という諦めが生まれる」

「第二に、希望の維持」
「D2リーグが最下位だと、『ここから這い上がれる』という希望がある」
「しかし、Eリーグを作ると、『最下位から抜け出せない』という絶望が生まれる」

小林が、頷いた。
「だから、D1とD2で分けたんですね」
「そう。『同じDリーグの仲間』という意識を持たせる」
「D2からD1への昇格は、『仲間の上位グループに入る』感覚」
「これなら、達成可能に感じる」

倉田が、感心した。
「よく考えられてるな……」
桜井が、答えた。
「神山教授の助言があったから」
「行動経済学と心理学の知見を、最大限に活用してる」

小林のスマートフォンに、別の着信。
神山教授からだ。
「もしもし」
「小林さん、今、桜井さんと話してる?」
「はい」
「じゃあ、スピーカーにして」

小林は、スピーカーフォンにした。
「桜井さんも聞いてます」
神山教授が、話し始めた。
「今日は、『リーグ名称』について提案があります」

「リーグ名称?」
小林が、聞いた。
神山教授が、説明した。
「Aリーグ、Bリーグ、Cリーグ、D1リーグ、D2リーグ」
「これだと、事務的すぎる」
「もっと、親しみやすい名前が必要です」

桜井が、質問した。
「例えば?」
神山教授が、答えた。
「例えば、サッカーのJリーグは、J1、J2、J3」
「野球は、セ・リーグ、パ・リーグ」
「プロ野球の二軍は、イースタン、ウエスタン」
「こういう、覚えやすくて、愛着の湧く名前」

倉田が、質問した。
「具体的には?」
神山教授が、提案した。
「例えば……」

Aリーグ → プラチナリーグ Bリーグ → ゴールドリーグ Cリーグ → シルバーリーグ D1リーグ → ブロンズリーグ D2リーグ → チャレンジリーグ

小林が、声を上げた。
「チャレンジリーグ!」
「いいですね」
倉田も、頷いた。
「『最下位』じゃなくて、『挑戦者』ってことか」

神山教授が、続けた。
「そうです。D2という呼び方だと、『最下層』という印象が強い」
「しかし、『チャレンジリーグ』なら、『これから挑戦する』というポジティブな印象」
「心理的な効果は、計り知れません」

桜井が、質問した。
「他のリーグ名は?」
神山教授が、答えた。
「プラチナ、ゴールド、シルバー、ブロンズは、オリンピックのメダルと同じ」
「誰でも理解できる」
「しかも、『上を目指したい』という気持ちが自然に湧く」

小林が、メモを取った。
リーグ名称:
Aリーグ → プラチナリーグ(20自治体)
Bリーグ → ゴールドリーグ(80自治体)
Cリーグ → シルバーリーグ(800自治体)
D1リーグ → ブロンズリーグ(600自治体)
D2リーグ → チャレンジリーグ(241自治体)
「これなら、住民も分かりやすいです」

倉田が、言った。
「我々は、チャレンジリーグか……」
「悪くない」
「挑戦者、だ」
倉田の目に、力が戻った。

神山教授が、続けた。
「さらに、もう一つ提案があります」
「リーグのロゴマークです」

「ロゴマーク?」
小林が、聞いた。
神山教授が、説明した。
「各リーグに、シンボルマークを作る」
「プラチナリーグは、プラチナ色のエンブレム」
「チャレンジリーグは、炎のエンブレム」
「『燃え上がる挑戦者』というイメージ」

小林が、興奮した。
「それ、めちゃくちゃいいですね!」
「自治体が、エンブレムを役場に掲げる」
「住民も、誇りを持てる」

桜井が、冷静に言った。

「デザイン費用は?」

神山教授が、答えた。

「結城さんが提案してるのは、クラウドファンディング」

「『地域創生リーグのロゴを、みんなで作ろう』というプロジェクト」

「目標金額300万円」


小林が、質問した。

「300万円……集まりますか?」

結城の声が、スピーカーから聞こえた。

「おう、俺も会議に入っていいか?」

神山教授が、笑った。

「どうぞ」


結城が、説明した。

「クラウドファンディングのリターンは、こうだ」

「3,000円:ロゴステッカー」

「10,000円:ロゴ入りTシャツ」

「30,000円:支援自治体の特産品セット」

「100,000円:自治体への視察ツアー招待」


「しかも、これ自体がPRになる」

結城が、続けた。

「『地域創生リーグ』の認知度を上げられる」

「メディアも取り上げやすい」

「一石二鳥だ」


桜井が、電卓を叩いた。

「300万円÷3,000円=1,000人」

「1,000人が支援すれば、達成」

「湊戸区の人口25万人の0.4%」

「十分、現実的な数字ね」


神山教授が、補足した。

「さらに、クラウドファンディングには心理的効果がある」

「『自分もこのプロジェクトに参加した』という当事者意識」

「これが、制度への賛成率を高めます」


小林が、感動した。

「なるほど……単なる資金調達じゃなくて、住民参加の仕組みでもあるんですね」

結城が、笑った。

「そうそう。しかも、デザイナーにもちゃんと報酬を払える」

「win-win-winだ」


倉田が、質問した。

「クラウドファンディングは、いつ始めるんだ?」

結城が、答えた。

「1月20日の説明会の直後」

「説明会で関心を持ってもらって、その熱が冷めないうちに開始」

「1ヶ月で300万円、集める」


神山教授が、頷いた。

「タイミングも完璧です」

「説明会で感動した住民が、すぐに行動に移せる」

「これを、『ホットコグニション効果』と言います」

「感情が高まっているときに、意思決定させる」


小林が、メモを取った。

ロゴマーク制作:

  • クラウドファンディングで300万円調達
  • 説明会直後に開始(1月20日〜)
  • リターン:ステッカー、Tシャツ、特産品、視察ツアー
  • 住民参加の仕組み
  • ホットコグニション効果を活用

「これなら、絶対に成功しますね」


倉田が、笑った。

「みんな、協力してくれるんだな……」

小林が、頷いた。

「はい。もう、僕たちだけじゃないんです」

神山教授が、最後に言った。

「小林さん、1月20日の説明会」
「これで、勝負が決まります」
「準備、万全にしてください」
「はい。必ず、成功させます」

電話が、切れた。
小林と倉田は、顔を見合わせた。
「チャレンジリーグ、か……」
倉田が、呟いた。
「ああ。俺たちは、挑戦者だ」
小林が、答えた。

二人は、再び資料に向かった。
プレゼンの最後のページ。
夕焼けの写真。
小林は、キャプションを追加した。

「チャレンジリーグから、プラチナリーグへ」 「この夕焼けを、一緒に守りませんか」

倉田が、じっと見つめた。
「……いい」
「これで、いこう」

午後8時。
小林と倉田は、市役所を出た。
外は、雪が降っていた。
夕焼市の夜。
街灯が、雪に反射して光っている。

「小林くん」
倉田が、立ち止まった。
「はい」
「ありがとう」

倉田の目に、涙が浮かんでいた。
「18年間……ずっと、この街を守ってきた」
「でも、どんどん衰退していった」
「何をやっても、ダメだった」

「でも……お前が帰ってきてくれた」
「誠一さんの息子が、帰ってきてくれた」
「そして、こんな素晴らしい構想を持ってきてくれた」

小林は、倉田を見た。
「倉田さん……」
倉田は、微笑んだ。
「もう少しだ」
「もう少しで、この街に希望が戻る」

小林は、頷いた。
「はい。必ず」
二人は、雪の中を歩いた。
足跡が、雪に残る。
「チャレンジリーグ……」
小林は、呟いた。
「俺たちの、闘いが始まる」


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