※この物語はフィクションです。
エピローグ 揺れる街の上で
日常へ戻る都市。だが自由を謳歌する影はまだ潜んでいた。光と影のせめぎ合いは終わらない。
街は少しずつ日常を取り戻していた。
赤く点滅していた警告灯も、今はただの誘導灯として静かに瞬いている。
通勤客のざわめき、ホームに吹き抜ける風──それらが都市のリズムを再び刻み始めていた。
佐伯は、疲労を隠せない三浦とともに改札を抜ける。
「終わったんですね」
三浦の声はかすれていた。
「いや……本当に終わったのかは、まだわからん」
佐伯はそう言って、視線を遠くの線路に投げた。
その頃。
港の倉庫街の一角で、一人の男が古びたノートPCを静かに閉じていた。
イブラヒム──。
祖国の紛争で家族を失い、日本に流れ着いた彼は、今もなお暗い闇の中で生きていた。
画面に映っていたのは、都市の路線図と貨物線の記録。
「これで終わりではない……」
低くつぶやくその声は、遠い国の夜風のように乾いていた。
街の光が揺れる。
影はまだ潜んでいる──。
了
目次
登場人物
佐伯涼介(35)
鉄道警察隊の巡査部長。冷静で論理的。家族を顧みず仕事に没頭してきた。
三浦真帆(28)
新人隊員。正義感が強いが経験不足。佐伯に反発しつつ尊敬もしている。
高田健吾(45)
老練なスリ師。かつては刑務所暮らし、今は仲間を率いる。だが「なぜか高リスクなターゲットばかり狙う」違和感。
イブラヒム(32)
外国人労働者。真面目に働いていたが、祖国の紛争で家族を失い、日本で過激派の片棒を担がされる。