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『母屋の約束』第2章——築90年の家で交わした、日本の未来への誓い

左が森山(55歳)。右が成田(57歳)。この二人が古民家の土間のテーブルでビールコップをもって飲んでいる。おつまみは5種盛りのつまみ。左の森山がスマホの数字を見せて熱く語っているのを右の成田が話を聞いている。

※この物語は政策エンタメのメソッドによって書かれたフィクションです。

目次

第2章:縁側での対話

夕暮れ時、酒を酌み交わす

「先輩、夜まで付き合ってもらえますか?話したいことがあるんです。」

森山がそう言うので、私は快諾した。

夕方になり、森山は縁側に座卓を出し、日本酒とつまみを並べた。

「祖母が好きだった酒なんです。地元の酒屋で売ってる、吟醸酒。」

森山が注いでくれた酒は、ほんのり甘く、飲みやすかった。

秋の虫の声が聞こえる。風が心地よい。

中庭の池では、鯉がゆっくりと泳いでいる。

「いい家だな。」

私は、心からそう思った。

都会の喧騒から離れ、時間がゆっくり流れる——こんな場所が、逢坂市内にあるとは思わなかった。

「先輩、日本ってヤバくないですか?」

森山が、いきなり切り出した。

「ヤバいって、何が?」

「少子高齢化ですよ。もう、マジでヤバい。」


森山が突きつけたデータ

森山はスマホを取り出し、画面を私に向けた。

「2024年上半期の出生数:33万9,280人。前年同期比3.1%減。過去最少です。」

「一方、死亡数は83万6,818人。自然減は49万7,538人。」

「合計特殊出生率は1.15。過去最低を更新し続けてる。」

私は、ニュースで見たことはあった。でも、数字を改めて突きつけられると、その深刻さが実感される。

「このままだと、2050年には日本の人口は1億人を切る。2100年には5000万人。先輩、これ、国として存続できるレベルじゃないですよね?」

「…まあ、確かにヤバいな。」

私は、酒を一口飲んだ。

「でも、政府も何かやってるんじゃないの?児童手当増額とか、保育園増設とか。」

「やってますよ。」

森山は、少し苛立ったように言った。

「児童手当増額、保育園増設、育休延長、173万の壁の引き上げ…色々やってる。」

「でも、全部、小手先なんですよ。構造が変わってない。だから出生率は下がり続けてる。」


「日本は、世界の最前線を走ってるのに」

森山は、ビールのジョッキを置いて、真剣な目で言った。

「先輩、日本って、少子高齢化では世界のトップランナーなんですよ。誰よりも早く、この問題に直面してる。」

「まあ、そうだな。」

「なのに、日本はソリューションを世界に発信できてない。いや、発信してないんじゃなくて、できてない。なぜなら、自分たちが解決できてないから。」

その言葉に、私はハッとした。

確かに。日本は「問題先進国」だ。でも、「解決先進国」ではない。

「でも、逆に言えば、これってチャンスじゃないですか?」

森山は、目を輝かせて続けた。

日本が少子高齢化を解決するモデルを作れば、それは世界標準になる。

「韓国も中国もヨーロッパも、これから同じ問題に直面する。その時、日本が『俺たちはこうやって乗り越えた』と示せたら、日本は世界のリーダーになれる。」

「少子高齢化のソリューションモデルを打ち立てる——これが、日本が世界の中心に立つ、一番早い道だと思うんです。」


私の反論——でも、どうやって?

「いや、森山の言うことはわかる。でも、具体的にどうすんの?」

私は、少し冷静に返した。

「政府も企業も学者も、みんな頭抱えてるんだぞ。そんな簡単に解決策なんて…」

「だから、発想を変えるんですよ。

森山は、譲らなかった。

「今の少子化対策って、全部『親が育てる』前提じゃないですか。保育園増やす、育休延ばす、手当増やす。でも、それで出生率上がってないんですよ。」

「だったら、『親が育てる』という前提を変えればいい。

「どういうこと?」

祖父母が育てる、というモデルです。


祖父母が育てる?

「祖父母が?いやいや、祖父母だって大変だろ。」

「そうですよ。だから、親が祖父母に養育費を払う。月5万とか10万とか。で、それを税制で控除する。」

「ほう…」

「親は、保育園に月10万払うより、祖父母に10万払う方が良くないですか?祖父母も、年金だけじゃ不安だから、孫を育てながら収入が入るのは助かる。」

「なるほど…」

「しかも、親は子育てのストレスから解放されて、フルタイムで働ける。夫婦喧嘩も減る。子どもは祖父母の愛情を受けて、のびのび育つ。」

全員がWin-Win-Win。

森山は、興奮気味に続けた。

「で、これ、別に親と祖父母が同居する必要ないんですよ。東京で働く親が、大阪の祖父母に預ける。週末や長期休暇に会いに行く。オンラインで毎日顔を見る。」

「それで十分、親子関係は深まる。むしろ、毎日イライラした親と過ごすより、週末だけでも笑顔の親と濃密に過ごす方が、子どもは幸せかもしれない。」


私の心が動いた瞬間

私は、少し考え込んだ。

確かに、理屈は通っている。

でも、「親子は一緒にいるべき」という常識が、頭の中で抵抗していた。

「でも、親子は一緒にいるべきだろ。」

私は、そう言った。

「先輩、先輩の息子さんたち、岡山と北海道にいるんですよね?」

「ああ、そうだけど。」

「毎月、会いに行ってるって聞きました。関係は良好ですか?」

「…まあ、良好だな。むしろ、実家にいた時より会話してるかも。」

「ですよね。一緒に住んでた時って、息子さんたち、部屋にこもってスマホいじってたんじゃないですか?」

「…それは、まあ。」

「会話は、LINEですよね?」

「…うん。」

「だったら、岡山でも北海道でも、沖縄でも、同じじゃないですか?(笑)

その瞬間、何かが腑に落ちた。

確かに。

実家にいた時、息子たちは部屋にこもってスマホをいじっていた。

「ご飯だよー」と叫んでも返事なし。LINEで「ご飯」と送るとスタンプだけが返ってくる。

それなら、岡山でも北海道でも、何が違うんだろう?

物理的に一緒にいることと、心理的に近いことは、別だ。

むしろ、離れているからこそ、会う時間が貴重になる。

「一緒に住んでる = 良い親子関係」という常識、本当にそうなのか?


「俺が、生き証人です」

「先輩、俺、祖母に育てられたんですよ。」

森山は、真剣な目で言った。

「親とは離れて暮らしてた。でも、全然寂しくなかった。祖母が愛情深く育ててくれたから。」

「むしろ、親と会った時は、お互い笑顔で、濃密に過ごせた。」

俺が、生き証人です。祖父母育ては、うまくいく。

その言葉に、私は言葉を失った。

彼自身が、「祖父母育て」の当事者だったのだ。


「この家が、証明です」

森山は、母屋を見渡して言った。

「この家、祖母が俺を育ててくれた場所です。ここで、俺は愛情を受けて育った。」

「だから、この家を壊せなかった。この家が、祖父母育ての価値を証明してるんです。」

「そして、この家を蘇らせることで、古いものを活かして新しい価値を創る——それが、日本の未来でもあると思うんです。」

私は、胸が熱くなった。

彼の人生そのものが、この提案の証明だった。


第1章目次第3章

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