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【推理小説】レールの影 第四章 迫る静寂

第四章 迫る静寂

※この物語はフィクションです。

「レールの影」第四章 迫る静寂
USBに隠された謎。沈黙の中から浮かび上がる“影の指揮者”の存在が、隊員たちを動揺させる。

鶴橋駅の近鉄ホームは立入禁止のテープで封鎖され、構内には重苦しい空気が漂っていた。

黒いリュックは爆発物処理班の隊員によって遠隔操作ロボットに取り囲まれている。

カメラのアームがリュックの口を慎重に開け、中身を映し出した。

「……何だ、これは」

モニターに映し出されたのは、数本の配線と時計仕掛けの装置。しかし、火薬反応は検出されない。

処理班の一人が無線で告げる。

「偽物です。ただのモックアップ。見せかけの爆弾ですね」

佐伯の顔に険しい影が走った。

「囮か……」

三浦は唇を噛んだ。

「じゃあ、本物はどこに?」

その問いに答えるように、背後で誰かが苦く笑った。
「そういうことだろ。俺たちは踊らされてる」

高田だった。護送のために拘束されていたが、騒然とする隊員の隙を突いて口を開いた。

「USBに入ってたのは、新幹線の爆破シミュレーションだろ?だったら、狙われてるのはここじゃない。もっと人が多くて、もっと派手に止められる場所だ」

佐伯は睨みつけた。

「お前が口を挟む立場じゃない」

「でも、俺の手が鍵を握ってる」

高田はポケットを叩いた。まだUSBを隠し持っていた。

その時、無線が震えた。

「本部から至急。梅田駅構内で不審な荷物発見との通報。詳細確認中」

三浦が顔を上げる。

「大阪の中心部……! 鶴橋は囮で、本命は梅田ってことですか?」

佐伯は答えなかった。だが心の中では既に確信していた。

この街の血流を止めるには、鶴橋より梅田だ。

テロリストの狙いは、最初からそこだったのだ。

その瞬間、高田の表情に奇妙な決意が浮かんだ。

「……だったら俺も行く。逃げ回ってるだけじゃ、気分が悪い」

三浦が目を見開いた。

「あなた、さっきまでただのスリだったじゃないですか!」

「そうだ。だが今は違う。俺の手の中には、この街を吹き飛ばす鍵がある」

佐伯は一瞬だけ逡巡した。

罪人と正義の境界、その曖昧な線の上に立たされていることを痛感する。

だが時間は待ってくれない。

「行くぞ、梅田へ」

その号令とともに、隊員たちは一斉に動き出した。

そしてその背後で、鶴橋駅の雑踏に紛れた男が静かに電話を耳に当てていた。

「計画どおりです。囮は成功しました」

低く響く声。黒幕はまだ、群衆の中に潜んでいた。

【次回予告】
「レールの影」第五章 欺かれた路線
操作される信号、偽装された痕跡。列車を走らせ続ける影の意図に、佐伯たちは気づき始める。

◀第3章はこち

目次

登場人物

佐伯涼介(35)
鉄道警察隊の巡査部長。冷静で論理的。家族を顧みず仕事に没頭してきた。

三浦真帆(28)
新人隊員。正義感が強いが経験不足。佐伯に反発しつつ尊敬もしている。

高田健吾(45)
老練なスリ師。かつては刑務所暮らし、今は仲間を率いる。だが「なぜか高リスクなターゲットばかり狙う」違和感。

イブラヒム(32)
外国人労働者。真面目に働いていたが、祖国の紛争で家族を失い、日本で過激派の片棒を担がされる。

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